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山田昭男|「稼ぎたければ、働くな」未来工業創業者が語った常識の逆をいく社員第一主義と差別化経営の哲学

未来工業株式会社創業者・山田昭男の著書『稼ぎたければ、働くな』(サンマーク出版)を紹介するceobooks.jpの記事アイキャッチ画像

「稼ぎたければ、しっかり働け」

この言葉を信じて頑張っている会社のうち、年間4000万円以上の利益を出せているのは全体の3%に過ぎない——山田昭男はそう喝破します。

「世の中の97%と同じ働き方をしていたのでは、いつまでたってもうまくいかない。ならば、その方法の真逆をとことんやってみるまでだ」

岐阜県大垣市に生まれた山田昭男が1965年に劇団仲間と立ち上げた未来工業は、年間休日140日(年末年始19連休)、残業禁止、ノルマなし、ホウレンソウ禁止、社員は全員正社員——日本でいちばん休みが多い会社として知られながら、創業以来40年以上赤字ゼロ、売上200億円、1991年には名古屋証券取引所に上場を果たしました。

本書『稼ぎたければ、働くな』は、その秘密を惜しみなく語った一冊です。


山田昭男の経営思想の核心は「97%がやっていることの真逆をやり、常に考える社員を育てること」
その一点を貫いたからこそ、ローテク業界でトップシェアを取り続けた。


山田昭男はどのような人物か(基本プロフィール)

氏名山田昭男(やまだ あきお)
生没年1931年10月7日—2014年7月30日(享年82歳)
出身中国・上海生まれ、岐阜県大垣市育ち
学歴旧制大垣中学校(現・岐阜県立大垣北高等学校)卒業
経歴家業の山田電線製造所を手伝いながら演劇に熱中→劇団「未来座」を主宰→1965年劇団仲間と未来工業株式会社を設立・代表取締役社長就任→1991年名古屋証券取引所第二部に上場→2000年取締役相談役就任→2014年逝去
主な実績創業以来赤字ゼロ。売上200億円。年間休日140日・残業禁止・ノルマなし・全員正社員を維持しながら経常利益率15%以上を継続。ビニールパイプ部門でシェアトップ獲得。1989年黄綬褒章受章
著書『稼ぎたければ、働くな』(サンマーク出版)ほか多数

「儲からない会社と反対のことをやれ」——なぜ97%がやっていることの逆が正解なのか

本書『稼ぎたければ、働くな』の出発点は、シンプルな逆張り論理です。

日本の600万社のうち、年間4000万円以上の経常利益を上げているのはわずか3%。残り97%は「一生懸命働いても稼げない」状態にある。その現実をまず直視することから、山田昭男の経営哲学は始まります。

「世の中のほとんどの人は働いても稼げない。他人と同じことをしても、儲からないのは当たり前だ。ならば、その反対のことをやればいい」

具体的には——儲かっていない会社が残業しているなら、うちは残業をさせない。儲かっていない会社が年末年始を一週間しか休まないなら、うちは19日間休む。その結果、タイムレコーダーを廃止して残業を禁止した翌年、売り上げが20%もアップした。

「常識とは97%がやっていること」——だから常識通りにやれば97%の結果になる。残り3%に入りたければ、常識の逆をやるしかない。この逆説が、未来工業という会社のすべての制度の根拠になっています。


「差別化とは常に考えること」——なぜビニールパイプの色を変えるだけでシェアトップになれたのか

本書『稼ぎたければ、働くな』の最も鮮烈なエピソードが、ビニールパイプの話です。

未来工業の社是は「常に考える」の一言です。会社中に「常に考える」という看板が至る所に貼られています。この言葉を体現するように、部長から食堂のスタッフまで、社員全員がアイデアを出す習慣を持っています。

ある社員がふと気づきました。「ビニールパイプって、なんでみんなグレーなんですか?」——業界では昔からグレーと相場が決まっていましたが、誰がそう決めたのかは誰も知らない。「グレーでなければ刑務所に入れられる法律でもあるわけじゃない」——そこでベージュに変えて売り出しました。仕上がりがきれいに見えるからです。

工事屋さんは涙を流して喜んだといいます。後から大企業も慌ててベージュのビニールパイプを出してきましたが、工事屋さんは最初に出した未来工業の製品を変わらず使い続けてくれる——これを「先手必勝」と山田昭男は呼びます。

「ちょっとした工夫をプラスして、先手必勝の立場を確立する。その後で、よそと同じ値段で売ればいい。『うちの商品にはプラスアルファがついているけど、他社と同じ値段でいいですよ』と」

未来工業の製品には「日本初」がたくさんあります。みな既存商品にちょっとした工夫を加えただけ。しかしその工夫によって「日本初」になったとたん、先手必勝の法則が働き始めます。


「ドアのノブを外した」——常識を疑う習慣が生む小さな革命とは

本書『稼ぎたければ、働くな』の中で、「常に考える」文化を象徴するエピソードがドアの話です。

ある社員がふと気づきます。「ドアは開ければ、閉めるに決まっている。なぜいちいちノブを回す? 時間と労力の無駄ではないか」——ドアにノブをつけるのは「世間の常識」だったが、誰もその必要性を問い直したことがなかった。

試しにノブを外してスイングドアにしてみました。両手に荷物を持っていても体でポンと押すだけで開く。自然に元に戻るから振り返って閉める手間もいらない。「なぜ今までこんな簡単なことに気がつかなかったのか」——周りも「たしかにそうだ」と気がつきました。

電灯も同じです。社内の蛍光灯一つひとつに社員の名札のついたひもがぶら下がっており、席を立つときは自分のひもを引いて消灯します。「その席に人がいないのに、なぜ蛍光灯をつける必要があるか」——実際には頻繁なオンオフで電気代が上がることもあるのですが、山田昭男がこれをやる本当の目的は節電ではありません。「社員が自分の頭で考える習慣を身につけるための、小さなきっかけづくり」なのです。


「社員全員が常に考える文化を作り、人材育成を最優先にした」経営者の事例は他にもあります。


「社員は泥棒だ、だからオープンにする」——なぜ信頼こそが最強の管理術なのか

本書『稼ぎたければ、働くな』で最も驚く管理論が、「泥棒論」です。

「人は怠け者で、ずる賢く、自分の得になることしか考えない。私くらい性悪説の人間も珍しい」と山田昭男は言います。しかし「泥棒を相手にするやり方が人と違う」。

未来工業の倉庫には鍵もシャッターもありません。商品が山積みされていますが、泥棒に入られたことが一度もない。「人はオープンにされると、かえって泥棒できなくなるものだ。大勢の人が見ている前でカバンが盗めるか? 見えないところに隠そうとするから盗まれる」

事務職員には通帳とハンコをすべて預けています。給料日に勝手にお金をおろして給料を払い、私が確認することはない——「隠すから盗まれる。守るから怠けられる。管理するからごまかされる。ひとたびオープンにしてしまうと、悪知恵を働かせる必要がなくなる」

タイムレコーダーを廃止したのも同じ原理です。「タイムレコーダーがあると、ズルズルと時間を延ばして残業代を稼ごうとする輩が必ず出てくる。廃止したら、不思議と仕事はちゃんと終業時間前に終わるようになった」

「人は、信頼されるからこそ一生懸命それに応えようとする。泥棒だって同じだ」


「アメをばらまけ」——なぜ社員を遊ばせることが会社の業績を上げるのか

本書『稼ぎたければ、働くな』後半の核心が「社員のやる気を100%引き出すことが社長の仕事」という哲学です。

未来工業には約80のサークルがあり、どのサークルにも会社から年間12万円の補助が出ます。3人集まって「サークル」を名乗れば何もやらなくても12万円受け取れる——「年間約1000万円の社員への小遣いだ。でも、それでしっかり働いてくれるなら安い投資だ」

5年に1度、全社員を海外慰安旅行に連れて行きます。費用は100%会社持ち——パリ、フロリダ、オーストラリアなど毎回好きな場所へ。総額1億5000万円を惜しみなく出す。「大盤振る舞いかもしれないが、慰安旅行に行った翌年、それに見合う利益がちゃんと出るようになっている。社員を喜ばせてやる気を引き出せれば、業績は上がる」

「働くな、と言われたことがない人間は、働かないと時間が余るのでどうしていいかわからない。だから金を出して奨励する。『おまえら、金をやるからどんどん遊べよ。残業して食って寝るだけならよその会社と同じやぞ。おまえらは人間なんだから、そんな情けないことするな』」

仕事はあくまでプライベートを充実させるためにやるもの——この確信が、年間140日の休日と残業禁止という制度の根拠になっています。


山田昭男のこだわりとは?

本書『稼ぎたければ、働くな』を通じて、山田昭男という経営者の核心が見えてきます。

「扇風機と鉛筆で管理職を決める」:管理職の人選に悩んだとき、山田昭男が取った方法は独特です。候補者の名前を書いた紙を扇風機で飛ばして、止まった紙に書かれた人を選ぶ——工場長の人選では部長5人が5人とも別の人間を推薦し、互いをけなし合ったので、鉛筆を倒して決めました。最も若い大学出の社員が工場長になり、5年後には6人だった工場を100人の大所帯に育て上げました。「器というのは、中にモノを入れてみて初めてわかる。事前にあれこれ迷うより、やらせてみることだ」

「裏紙100%ルール」:未来工業では書類を送るとき100%裏紙を使います。「取引先が『ご査収ください』という紙をせっせと送ってくれるから、うちでは新品のコピー用紙を買う必要がほとんどない。ムダなものには徹底して一円も使わない。その代わり社員のやる気が出るものにはいくらでも使う」——ケチとアメのメリハリが山田昭男流です。

「ホウレンソウは一切禁止」:報告・連絡・相談を社内で禁止しています。「ホウレンソウをしているから自分で考えなくなる。自立心が育たない。命令でも指示でもなく、部下を説得して納得させて動かすのが上司の仕事だ」——管理職には命令する権利がない代わりに、説得する責任があります。


山田昭男ゆかりの地とは?

岐阜県大垣市(創業・本社の地):未来工業が創業し、今も本社を置く場所。「日本一社員が幸せな会社」が地方の中小都市から生まれたという事実が、「東京でなくても最高の会社は作れる」というメッセージになっています。本社ビルの至る所に「常に考える」の看板が貼られているのが、この会社を訪れた人が最初に気づくことです。

劇団「未来座」(発想の源):山田昭男が演劇青年として熱中し、父親に勘当されながらも続けた場所。「芝居はアンサンブル、経営はチームワーク」という言葉が本書に登場します。舞台の演出家として全体を動かす経験が、「社員一人ひとりのやる気を引き出す」という経営スタイルの原型になっています。「未来工業」という社名も「未来座」から取られています。

ミライコミュニティシアター(社会への還元の場):1975年から山田昭男が立ち上げた文化事業。ボリショイバレエ団、アントニオ・ガデスの「カルメン」、モスクワ・マールイ劇場のオペラなど、世界一流の舞台を無料で地域市民に開放してきました。「放っておいたら一生ボリショイを観られない人たちに、初めての体験を味わってもらうことに意味がある」——社員のやる気を上げる目的と同時に、地域文化への貢献でもありました。


山田昭男から学ぶ、3つの教訓とは?

1. 「97%がやっていることの逆をやれ」——差別化は発想の逆転から始まる

儲かっている会社は全体の3%。その3%と97%の違いは何か——「常識を疑う習慣があるかどうか」だと山田昭男は言います。ビニールパイプの色、ドアのノブ、タイムレコーダー——誰も疑わなかった「常識」を問い直すだけで、競合のいない先手必勝のポジションを取れる。イノベーションは大発明ではなく、「なぜそうなっているか」と問い続ける習慣から生まれます。

2. 「管理するからごまかされる」——信頼をオープンにすることが最強の管理だ

管理を強化すれば、管理の抜け穴を探す知恵が育ちます。逆にすべてをオープンにして信頼を示すと、裏切りにくくなる——この逆説が未来工業の鍵のない倉庫・共有の通帳・タイムレコーダーなしという制度の根拠です。「信頼されるから人は一生懸命応えようとする」という原則は、組織マネジメントだけでなく、あらゆる関係性に通じる普遍的な真理です。

3. 「アメを先に出せ、ムチではなくアメで動かせ」——やる気は与えるものだ

「やってくれたらあげる」ではなく「あげるからやってくれ」——この順序が山田昭男の人材活用の核心です。5年に1度の全額会社負担の海外慰安旅行、年間1000万円のサークル補助、残業代なしで残業代相当を給与に上乗せ——先に惜しみなく与えることで、社員は「応えなければ」という自発的な動機を持ちます。「ガソリン代をけちって走り続けられる車など見たことがない」


この記事で語りきれなかった『稼ぎたければ、働くな』の魅力とは?

本書にはまだ紹介しきれていないエピソードが多くあります。

一つ目は、「出戻り社員は会社の宝」という制度です。退職した社員が「やっぱり未来工業に戻りたい」と申し出たとき、未来工業では無条件で再雇用します。「出戻りはよその会社で外の空気を吸ってきた貴重な人材だ。よその会社がいかにひどいか体験してきた分、うちの良さが骨身に染みてわかっている。こういう社員はこれ以上ないくらいやる気に満ちているものだ」

二つ目は、「稼ぎたいなら大損してこい」というアドバイスです。「大損は大儲けの予備軍だ。リスクのないところには本当の利益はない。大損とは大きなチャレンジをしたということだから、誇れ」——失敗を責めない文化が「常に考える」「新しいことに挑戦する」姿勢を生み続けます。

三つ目は、「総務部が年間2000万円稼ぐ」という話です。総務部は一般的にコスト部門ですが、未来工業の総務部は国や自治体からの補助金を積極的に申請することで、年間2000万円もの補助金を取り続けています。「普通の会社は補助金があることを知っていても、申請手続きが面倒だと言ってやらない。やれば取れるのに、やらないのはバカだ」——徹底した「使えるものは使う」発想です。

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まとめ|山田昭男が教えてくれること

「すべては今持っているちっぽけな『常識』を捨てることから始まる」——本書の結論を一言で表せば、この言葉です。

年間休日140日・残業禁止・ノルマなし・ホウレンソウ禁止——外から見れば「こんなんで儲かるわけがない」と誰もが思う経営を、山田昭男は40年以上赤字ゼロで続けました。

それは「奇をてらった経営」ではありません。「97%がやっていることを疑い、社員に考えさせ、信頼し、惜しみなく与える」という一貫した哲学の産物です。

本書『稼ぎたければ、働くな』は、「当たり前」を問い直す勇気を与えてくれる一冊です。ぜひ手に取ってみてください。


よくある質問

Q: 未来工業はなぜ年間休日140日でも赤字にならないのですか?

A: 「社員のやる気が上がるから」というのが山田昭男の答えです。残業禁止にしたら終業時間前に仕事が終わるようになり、タイムレコーダーを廃止したら時間を誤魔化さなくなった。休日を増やしたことで社員の会社への帰属意識が高まり、差別化商品を生み出すアイデアが増えた。「社員のやる気を100%引き出すことが社長の仕事」という信念が、休日の多さと業績の良さを両立させています。

Q: 「ホウレンソウ禁止」で仕事は回るのですか?

A: 未来工業では「自分で考えて判断する」ことを社員に求めるため、報告・連絡・相談を禁止しています。管理職は命令する権利を持たない代わりに「説得して納得させる」義務があります。一見非効率に見えますが、社員が自分で考える習慣が育ち、「常に考える」という社是が組織全体に浸透することで、指示待ち社員がいなくなるというのが山田昭男の主張です。

Q: 未来工業の「差別化」とは具体的に何をするのですか?

A: 既存商品に「ちょっとした工夫」を加えて「日本初」を作ることです。ビニールパイプをグレーからベージュに変える、ドアのノブを外してスイングドアにする——大発明は必要ありません。「常に考える」習慣が身についていると、誰もが当然と思っている「常識」に疑問を持てるようになる。その疑問が差別化の種になります。


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参考文献:山田昭男『稼ぎたければ、働くな』(サンマーク出版)