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会社説明会のブースに来た学生は、たった3人でした。
1980年、高知県。横田英毅さんは意気込んでいました。「全社員が常に考え、勇気をもって可能性に挑戦し、のびのびと能力を発揮できる職場」——そんな熱い言葉を書いたパンフレットを手に、地元の合同説明会に初めて参加したのです。
しかし結果は惨敗でした。新卒採用ゼロ。自動車ディーラーは不人気業種の常連で、学生は見向きもしなかったのです。
そこから横田さんは、誰もやらない道を歩み始めます。
量を追わない。指示・命令をしない。給料は業界最低水準のまま。飛び込み営業もやめる——常識をことごとく逆走するような経営を30年以上続けた先に、ネッツトヨタ南国はオールトヨタ顧客満足度12年連続全国No.1という結果を手にしました。
本書『会社の目的は利益じゃない』は、その30年の軌跡と哲学を余すところなく語った一冊です。「真新しいことなど何一つない」と横田さんは言います。ただ、「いちばん大切なことを、いちばん大切にし続けた」だけだと。
横田英毅さんの基本プロフィール
| 氏名 | 横田英毅(よこた ひでき) |
| 役職 | ネッツトヨタ南国株式会社 相談役(元代表取締役社長) |
| 創業 | 1980年、ネッツトヨタ南国を設立 |
| 主な実績 | オールトヨタ顧客満足度12年連続全国No.1。日本経営品質賞受賞。離職率2%(業界平均を大幅下回る)。法政大学・坂本光司教授の著書『日本でいちばん大切にしたい会社2』に掲載 |
| 著書 | 『会社の目的は利益じゃない』(あさ出版、2013年) |
「会社の目的は何か」——30年間変わらなかった答え
多くの経営者は、売上と利益を経営の目的にします。横田さんの答えは違います。
「全社員を勝利者にすること」
これが、横田さんがネッツトヨタ南国を創業した日から変わらない経営の目的です。
では「利益」はどこに位置づけられるのか。横田さんの説明はシンプルです。「社員とその家族の幸せ、お客様の幸せのためには、赤字では何もできない。だから業績を上げなければならない。しかし利益は目的ではなく、道具だ」と。
本書『会社の目的は利益じゃない』に繰り返し登場する言葉があります。「いちばん大切なことを、いちばん大切にする」。
言葉にすれば当たり前に聞こえます。しかし横田さんは、これほど実行が難しいことはないと言います。多くの会社が「今、何が大切か」をわかっていながら、現実には別のことに力を入れている。目先の数字に追われるうちに、理念はいつしかお題目になっていくのです。
横田さんはその誘惑を、30年以上にわたって跳ね返し続けました。
採用ゼロからの出発——「待遇が悪いからいい社員が来る」
創業初年度の合同説明会、ブースへの来訪者は3人。新卒採用はゼロでした。
普通の経営者なら、給料を上げるか、採用の基準を下げるかを考えるでしょう。横田さんはどちらもしませんでした。
「いい人材を確保することが、会社にとって何より重要だ」。その確信は創業時から揺らぎませんでした。横田さんは最初の10年間、使える時間の半分以上を採用に割きます。採用コストは同規模の他社の5倍。対象を就職間近の3・4年生だけでなく、1・2年生まで広げました。早くから関係をつくらなければ、知ってもらう時間が足りないと考えたからです。
そして横田さんは、逆説的な採用戦略を磨いていきます。
「待遇が悪いから、いい社員が採用できる」
給料が高く安定した会社には、学生が群がります。しかし大勢の中から「本物」を見つけることはできない。一方、待遇の低さをあえてさらけ出せば、お金や安定目当ての人は来なくなります。残るのは「やりがい」を求めている人だけです。
面接は合計30時間。学生とじっくり向き合って、価値観と人柄を見極めます。筆記試験より重視するのは「何を大切にしているか」でした。内定を出した後も「もっと自分に合った会社が見つかったら辞退していいよ」と伝えます。
こうした姿勢が口コミで広まり、やがて高知の学生の間で「珍しい会社」として知られるようになりました。大学のOBが後輩に「一度は訪問しておいたほうがいい」と勧める会社になっていったのです。
こうした地道な採用改革の道のりは、決して平坦ではありませんでした。
他の経営者がどんな逆境を乗り越えてきたかをあわせて見ることで、より理解が深まります。
「指示・命令はいっさいしない」——社員が自ら考える組織へ
ネッツトヨタ南国には、上司から部下への指示・命令がありません。
代わりに横田さんが使うのは「問い」です。「これ以上の方法はないのかな?」「なぜ、この方法を採用したのかな?」。答えを与えるのではなく、自分で考えさせる。
なぜそうするのか。横田さんの答えは明快です。上司が命令すれば結果は早く出るかもしれない。しかし「考える→発言する→行動する→反省する」という成長のプロセスを、命令によって奪ってしまうからです。
電球が切れていたとします。横田さんは自分で替えます。それを見た部下が「上司より先に気づかなければ」と思うかもしれない。指示ではなく、背中で伝える。その回り道こそが、本書『会社の目的は利益じゃない』で横田さんが「最も重要なプロセス」と呼ぶものです。
プロジェクトチームの議論も、多数決ではなく全員一致が原則です。時間はかかります。しかし全員で決めたことは「やらされる行動」ではなく「自分が決めた行動」になる。このコミットメント効果が、組織全体の質を押し上げていきます。
「自分がやりたくない仕事は、社員にやらせない」——飛び込み営業の廃止
ネッツトヨタ南国には、飛び込み営業が存在しません。
横田さんが廃止を決めたのは、自分が実際に飛び込み営業をやってみたからでした。区画割りしたエリアを歩き、知らない人の呼び鈴を押す。ドアが開いた瞬間、相手の表情がみるみる曇っていく。「なんだ、車の営業か」——その顔を見た瞬間、横田さんは確信しました。
「こんな仕事を、社員にやらせてはいけない」
お客様に喜ばれない仕事は、やる側の社員も傷つけます。横田さんはその原則を「自分がやりたくない仕事は、社員にやらせない」という言葉にしました。
代わりに選んだのは、お客様に来店してもらう「来店集客型」の営業です。アフターフォローに時間の50%を割き、買ってくれたお客様のところへ定期的に顔を出す。目的は次の車を売ることではありません。「お客様との親密度を深めること」が目的です。
来店したお客様のナンバープレートを入口でスキャンし、インカムで全スタッフに情報を共有する。「ようこそ○○様、本日はオイル交換でご来店ですね」——名前で迎えられたお客様の驚きが、次の来店につながります。
「今日の1台より将来の100台」——10年かけた1台を評価する仕組み
自動車の販売では、一度車を買ってもらってから次の購入まで、長ければ10年以上かかります。
多くの販売会社は、その10年を「何もない時間」として過ごします。ネッツトヨタ南国は違います。その10年のプロセスに評価の仕組みを作りました。
「○○のお客様に点検のご案内をしていますか?」「△△様と信頼関係を深めていますか?」——こうした問いかけをチェックリストにして、クリアするたびにポイントが積み上がります。結果の数字ではなく、関係を深めていくプロセスそのものが評価の対象になるのです。
本書『会社の目的は利益じゃない』で横田さんはこう語ります。「一台の車を販売するまで、長いときは10年以上かかります。その10年のプロセスを、すべてきちんと評価するのです」。
「今日の1台を売るために動く」のではなく、「将来の100台を生む関係を育てる」ために動く。この発想の転換が、顧客満足度No.1という評価の土台を作りました。
同じく「量ではなく質」を追い求め、地道な積み上げで独自のブランドを築いた経営者もいます。
お遍路と特攻隊の遺書——「人間力を育てる」研修の真意
ネッツトヨタ南国には、ユニークな研修が2つあります。
ひとつは、目の不自由な方と一緒に四国遍路を歩く研修です。
「社会的弱者に対する思いやりを育てるためですか?」とよく問われます。しかし横田さんの意図は逆です。目の不自由な方が目の前を歩いていると、若い社員はすぐに気づきます。「自分には見えているのに、どれほど多くのことを見落としているのか」ということを。目が見えることで、逆に見えなくなっているものがある——その逆転の感覚が、この研修の本当のねらいです。
もうひとつは、特攻隊員の遺書を読む研修です。
20代の若者が書き残した言葉には、「お母さんお母さんお母さんと」と繰り返されるものもあります。胸が震えるような文字を目の当たりにすると、「生きるとは何か」という問いが湧いてきます。感謝の気持ちが溢れてくる。人生に対する真剣さが変わる。
横田さんはこれを「人間力」と呼びます。やりがいを感じる人間になるには、まず人生そのものへの関心が必要です。その関心は、命に向き合う場を与えなければ育ちません。売上目標を語る前に、生きることの深さを伝える——これがネッツトヨタ南国の人材育成の核心です。
横田英毅さんのこだわり
本書『会社の目的は利益じゃない』を通じて、横田さんの経営を支える習慣がいくつも浮かびあがります。
「短期改革をしない」——横田さんは「二年や三年で企業風土の革新を行おうとしても、よい結果にはならない」と断言します。深く根を張った立派な木が数年では育たないように、よい会社をつくることも短期間ではできない。「地道にこつこつと、人の幸せを本気で考え続けることが経営の王道だ」という信念を、30年以上ブラさずに持ち続けてきました。
「問題の真の原因を探す」——表面化した問題に対処するだけでは、同じ問題が繰り返し起きます。横田さんが重視するのは「川上にある問題の根本解決」です。クレームが起きた後に対処するのではなく、なぜクレームが起きたのかの原因を探る。この姿勢が、会社全体をより根本的な方向へ引き上げていきます。
「自分で電球を替える」——ショールームで電球が切れていると、横田さんは自分で替えます。「部下に注意する前に、まず自分が動く」。これは指示・命令をしないという経営方針の、日常の最小単位です。変えられるのは他人ではなく自分だけ——その原則を、言葉だけでなく行動で体現し続けています。
横田英毅さんゆかりの地
高知県(ネッツトヨタ南国の本拠地):1980年の創業以来、量追求の時代に逆行しながら「質」を磨き続けた舞台です。自動車ディーラーの不毛な価格競争や飛び込み営業が当たり前の業界で、横田さんは独自の道を歩み続けました。全国のトヨタ販売会社が数百社ある中で、高知という地方の一ディーラーが12年連続顧客満足度No.1を達成した奇跡の地でもあります。
四国八十八箇所(お遍路の道):社員研修の舞台となる場所です。目の不自由な方の案内人として歩きながら、若い社員が「自分に見えていないものの多さ」に気づく。数字や売上とは無関係に見えるこの体験が、顧客との向き合い方を根本から変えていきます。
横田英毅さんから学ぶ、3つの教訓
1. 「質の会社」は、採用から始まる
ネッツトヨタ南国の強さの源泉は、採用への執着です。初年度の新卒採用がゼロでも、横田さんは採用コストを5倍かけ続けました。「給料が安いから学生が来ない」ではなく、「給料が安いからこそ、やりがいを求める本物が残る」という逆転の発想。採用活動に経営者自らが全力を注ぎ、価値観の合う人だけを迎え入れる。それが30年後の離職率2%という数字につながっています。人を安く見ている会社は、いつまでも人で苦しみ続けます。
2. 結果ではなくプロセスを評価すると、人が本気になる
10年かけた1台の販売に対して、プロセスのすべてを評価する仕組みを作る。売れた数ではなく、何をやってきたかを問う。この評価軸の転換は、社員の行動を根本から変えます。「今日売れるかどうか」ではなく「10年後に100台を生む関係を育てているか」を考えるようになるからです。目先の数字に追われる組織と、プロセスを大切にする組織では、5年後・10年後に圧倒的な差が開きます。
3. 「当たり前のことを、人並み外れた熱心さで続ける」だけでいい
横田さんが繰り返す言葉です。名前でお客様を迎える、購入後も定期的に顔を出す、クレームを成長の機会にする——どれも特別なことではありません。しかし大半の会社は、いつの間にかこれをやめていきます。ネッツトヨタ南国が12年連続No.1を維持できた理由は、特別な仕組みではなく「当たり前のことを当たり前にやり続けた」という事実の積み重ねです。本当に強い経営は、派手な革新より地味な継続の中にあります。
この記事で語りきれなかった『会社の目的は利益じゃない』の魅力
本書『会社の目的は利益じゃない』には、まだ紹介しきれていない論点が多くあります。
一つ目は、「鬼と金棒」が人材の条件という章です。能力(金棒)だけでなく、厳しさと思いやりを併せ持つ人間性(鬼)がなければ、組織の本当の意味でのリーダーにはなれない。この「人間力」の定義が、採用基準にも研修設計にも一貫して反映されています。
二つ目は、全社員が「船長」として考える仕組みです。部分最適ではなく全体最適で考えられる社員をいかに育てるか。プロジェクトチームのテーマ設定から評価の仕組みまで、具体的な方法が豊富に語られています。「社員全員を経営者に変える」という言葉の意味が、読み進めるうちに実感として伝わってきます。
三つ目は、メンタルヘルスと「やりがい」の関係です。待遇の良い会社に成長はなく、やりがいのない組織はメンタルヘルスの問題を生みやすい——横田さんはこの関係を、自社の具体的なデータをもとに語っています。「仕事が楽しくないのは個人の問題ではなく、会社の問題だ」という主張は、多くの経営者に突き刺さります。
まとめ|横田英毅さんが教えてくれること
採用初年度はゼロ。業界最低水準の給料。飛び込み営業なし。指示・命令なし。
傍から見れば、経営として成立するのか疑問に思える選択ばかりです。しかし横田さんはブレませんでした。「質を高めれば、量はあとからついてくる」という信念を、30年以上かけて一つひとつ証明し続けました。
「私にとっては、世の中の多くの人が求める短期間での改革・革新のほうが、よほどむずかしい」——横田さんはそう言います。
奇策はありません。特別な才能も必要ありません。いちばん大切なことを、いちばん大切にし続けること。その難しさと価値を、ネッツトヨタ南国の30年は静かに証明しています。
本書『会社の目的は利益じゃない』は、経営者だけでなく、組織で働くすべての人に向けて書かれた一冊です。「いい会社とは何か」を問い直したい方に、ぜひ手に取ってほしい本です。
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参考文献:横田英毅『会社の目的は利益じゃない——誰もやらない「いちばん大切なことを大切にする経営」とは』(あさ出版、2013年)
