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村岡浩司|「九州バカでいこう」九州パンケーキ創業者が語った地元を世界につなぐリージョナルブランドの作り方

村岡浩司さんの著書『九州バカ——世界とつながる地元創生起業論』(木楽舎)を紹介するceobooks.jpの記事アイキャッチ画像

「いやあ、しょうがないよ。〝九州バカ〟ですから!」

友達に呆れられるほどの九州愛を、村岡浩司さんはそう笑い飛ばします。

宮崎県宮崎市で父親が開いた一軒の寿司屋から始まった事業を継ぎながら、2002年に地元にタリーズコーヒーを出店。しかし賑わいはイオンモール開業とともに去り、口蹄疫と新燃岳噴火が地域を直撃し、村岡さんは追い詰められます。

そこで気づいた問いが、すべてを変えました。「九州はひとつの島として捉え直したら、どんなリージョナルブランドが生まれるか?」

2012年12月、九州全域の穀物を原料に使ったパンケーキミックス「九州パンケーキ」が誕生します。国内約3000店舗、アメリカ日系スーパー211店舗、台湾・シンガポールにカフェを展開——「田舎の宮崎」から世界に届くブランドが生まれた瞬間でした。

本書『九州バカ』は、その軌跡と哲学を惜しみなく語った「地元創生起業論」の実践書です。


村岡浩司の経営思想の核心は「地元を守るために稼ぎ、稼いだ利益を地元に還す」
小さな地方都市の事業家が世界ブランドを作れた理由は、その一点を信じ続けたからだ。


村岡浩司さんはどのような人物か(基本プロフィール)

氏名村岡浩司(むらおか ひろし)
出身宮崎県宮崎市
学歴留学経験あり(アメリカ)、詳細は非公開
経歴父親が創業した有限会社一平(寿司屋)を継承→2002年宮崎市にタリーズコーヒー九州一号店オープン→商店街活性化委員会委員長として奮闘→2008年シンガポールでタリーズコーヒー立ち上げ参加→2012年九州パンケーキ開発・発売→2014年頃から台湾・シンガポールへ展開→国内3000店舗・海外にカフェ展開
主な実績九州パンケーキを国内約3000店舗・アメリカ211店舗の日系スーパーで展開。九州パンケーキカフェを台湾・シンガポールに出店。宮崎県「成長期待企業」認定
著書『九州バカ——世界とつながる地元創生起業論』(木楽舎)

「九州はひとつの島だ」——なぜ宮崎のパンケーキが「九州ブランド」になったのか

本書『九州バカ』で村岡さんが繰り返す視点が、「県ではなく九州」という発想の転換です。

日本には北海道というリージョナルブランドが存在しますが、九州には「九州〇〇」という地域全体を冠したブランドがほとんどありませんでした。村岡さんはここに可能性を見ました。

「地域がバラバラなままでは魅力が伝わりにくい九州を『一つの島』として捉え直し、価値を再定義したらどうだろう?」

九州パンケーキのミックス粉には、福岡県の小麦粉、熊本県と大分県のもち麦、熊本県の米粉、沖縄・鹿児島のきび砂糖——九州全域の素材が入っています。「宮崎産パンケーキ」ではなく「九州パンケーキ」にしたのは、九州全体を巻き込むブランドを作りたかったからです。

「九州パンケーキというブランド概念は、もちろん僕の会社の専売特許ではない。九州という地域の可能性の中で生かされているワン・オブ・ゼム」——自社だけが得をする仕組みではなく、九州全体が盛り上がるムーブメントとして設計した点が、他の地方ブランドと一線を画します。

この商品コンセプトを宮崎県物産貿易振興センターに相談したとき、「九州全体を一つの島として捉えるコンセプトはまったく理解されず、結果はほぼ門前払い」だったと本書には正直に書かれています。それでも突き進んだ先に、世界に通じるブランドが生まれました。


「口蹄疫・新燃岳噴火・イオン開業の三重苦」——なぜ追い詰められた経営者が新商品開発に活路を見出したのか

本書『九州バカ』の核心は、逆境から生まれた発想です。

2005年にイオンモール宮崎がオープンすると、商店街の歩行者数は一時期30%以上減少しました。村岡さんは中心市街地活性化組織の委員長として、年間300回を超えるイベントを開催します。しかしいくらイベントを打っても賑わいは戻らない。「なんとかしなくては」という焦りばかりが先行し、心が病んでいきました。

さらに2010年、宮崎経済を直撃する口蹄疫が発生。翌2011年には新燃岳噴火——九州の地方経済が根底から揺らぐ中、村岡さんは追い詰められます。

「思案を重ねた末に出した答えは、『九州の素材を生かした地産プロダクトをつくること』だった」

イベントによる一時的な賑わいではなく、県外から外貨を稼いで地元に還元するビジネスモデルへの転換——これが「地元創生起業」という概念の原点です。

「商店街の発展に尽力する」という形でのまちづくりから、「稼ぐビジネスで地元に利益を還流する」という形への発想の転換が、九州パンケーキを生みました。

経営者たちが経験した逆境と立て直しのパターンはこちらにもまとめています。


「素人だから生まれた商品」——なぜ製粉業界を知らない経営者がヒット商品を作れたのか

本書『九州バカ』の商品開発論で最も印象的なのが、「素人であることの強み」という逆説です。

村岡さんは寿司屋の息子であり、食に関わる仕事はしていましたが、パンケーキミックスの開発経験はゼロ。製粉業界の事情もほとんど知りませんでした。

「知らないからこそ、恥も外聞もなく誰にでも相談でき、疑問点は自分が納得するまで突き詰めることができた」

製粉業界には長年の「定石」があります。乳化剤・香料・加工澱粉を使うのが当たり前、コストを下げるために添加物を使うのが常識——村岡さんはこれらを全部無視しました。「余計な添加物を使わない、素材本来のおいしさを純粋に追求する」姿勢を崩さなかったのは、業界の慣習を知らなかったからです。

「過去の経験は、新しいものを生み出すための足かせになる場合も多い」——本書に書かれたこの言葉が、九州パンケーキ誕生の本質を語っています。

スーパーに並ぶパンケーキミックスとは違う、九州の産地に紐付いた素材だけで作った商品は、価格は汎用品の2倍程度になりました。それでもファンがリピーターとして支え続ける理由は、「背景にあるストーリーと理念に共感してくれるから」だと村岡さんは言います。


「軸足は地元に、片足は世界へ」——なぜ田舎の会社が東京より先に台湾・シンガポールに出店したのか

本書『九州バカ』の海外展開論は、地方企業の「東京崇拝」への痛烈な問い直しです。

「田舎で商売をしていると、どうしても東京がキラキラと輝いて見え、大都会の巨大なマーケットに憧れる」——しかし村岡さんはこの発想を逆転させます。

「東京は1700か所余りの市町村が全国から群がり、こぞって故郷自慢をしている大激戦区」——東京に出ても競合だらけです。一方、台湾やシンガポールでは「九州」という名前の認知度は低いが、「日本の地方文化」への関心は高く、競合が少ない。

台湾への最初のアプローチは、偶然の出会いからでした。台湾から来た輸入業者が九州パンケーキに惚れ込み、「台湾に卸させてほしい」と連絡してきたのです。「まずは動いてみる」姿勢が、世界への扉を開きました。

九州パンケーキカフェ台湾1号店は、オープンから3年以上経った時点でも連日長蛇の列——「上海に住む女の子たちが、聞いたこともない『九州』の名を冠したカフェを訪れ、九州パンケーキを食べて幸せな時間を過ごす。その一口から生まれる利益がぐるりと巡って、九州の産地を元気にする誰かの役に立っている」という村岡さんの夢が、現実になりつつあります。


「地元創生起業」とは何か——なぜ「雇用創出」より「起業家育成」が地域に必要なのか

本書『九州バカ』の中心にある概念が「地元創生起業」です。

村岡さんは「地方創生」という言葉に違和感を覚えていました。「東京が主語にあって、中央から全国を見下ろしているようなイメージ」があるからです。代わりに「地元創生」という言葉を選びます——それぞれの地域から主体的に湧き上がる創造という意味を込めて。

「地域にとって真に必要なのは『雇用』ではなく『起業家・経営者』の創出だ」——これが村岡さんの主張です。起業家が増え、新たな産業が生まれれば、雇用は自ずとついてくる。補助金やイベントで一時的な賑わいを作っても、ビジネスで稼ぐ仕組みがなければ持続しない。

「地元に愛され育てられて、なおかつしっかりと稼ぎながら、成長への欲求も否定せず、利益は地元へ還流するエコシステムを生み出すビジネスの創造——それを僕は地元創生起業と呼んでいる」

この考え方を実践するため、村岡さんはビジネスコミュニティを立ち上げ、次世代の起業家育成にも力を入れています。「九州パンケーキという僕の事業は一つのビジネスモデルの証明。それを見て九州各地の人たちが自分なりの九州ブランドを作り始めてくれたとしたら、最大の役割を果たせたことになる」


「地域に根ざし、利益より使命を優先して経営した」経営者の哲学は他にもあります。

宗次德二|カレーハウスCoCo壱番屋創業者が語った「ありがとう」で回る経営哲学

食品の世界でゼロから独自ブランドを作り上げた先人も参考になります。

安藤百福|日清食品創業者が語った「まだない食」を発明する執念の経営哲学


村岡浩司さんのこだわりとは?

本書『九州バカ』を通じて、村岡さんという経営者の核心が見えてきます。

「九州全域を12万キロ走る」:九州パンケーキ発売から5年で、原料の産地や生産者を訪ねて九州中を約12万キロ走破しました。地球を3周する距離です。「これだけ走っても、九州はいつも新しい発見に満ちている」——この現場主義が、産地に紐付いた商品の説得力を生んでいます。

「ブームを冷静に見る」:タリーズコーヒーでカフェブームを経験したからこそ、パンケーキブームを「これは必ず日本中に広がる」と確信しながら「ブームの表層を追うだけでは永続する事業は作れない」と冷静に分析できました。ブームに乗りながら、ブームが終わっても残るブランドを作ることを目指した点が、九州パンケーキが今も続く理由です。

「情報は利他の精神で共有する」:本書の各章に添えられた「起業マインドメモ」に「共有情報は利他の精神で、抱え込まずに共有していく。共有することで多角的な視点が生まれ、情報の価値は高まり、可能性は増幅していく」とあります。九州パンケーキのビジネスモデルを公開し、他の起業家が九州ブランドを作ることを歓迎する姿勢はここから来ています。


村岡浩司さんゆかりの地とは?

宮崎市中心市街地(苦闘の場所・原点):橘通り商店街を中心に、イオンモール開業後の賑わい消滅と戦い、300回を超えるイベントを打ち続けた場所。「まちの若手の救世主」と持ち上げられながら、疲れ果てて心が病んでいった——この苦しい経験が「イベントではなくビジネスで地元を変える」という確信を生みました。

九州各地の産地(九州パンケーキの素材の源):福岡の小麦、熊本・大分のもち麦、熊本の米粉、沖縄・鹿児島のさとうきび——原料を求めて12万キロ走り続けた場所。「九州全体が、僕のふるさとであり、僕が守るべき持ち場だ」という言葉が、この旅から生まれています。

台湾・シンガポール(夢の証明の場所):「田舎の宮崎」発のブランドが、東京を飛ばして海外で先に成功した場所。台湾1号店は開店から3年以上経っても連日長蛇の列。「中央(東京)に憧れるのではなく、直接世界と向き合う」という村岡さんの哲学が実証された現場です。


村岡浩司さんから学ぶ、3つの教訓とは?

1. 「ローカルをリージョナルに変えれば、世界と戦える」——スケールの定義を変えることが勝負を決める

「宮崎産」では小さすぎる。しかし「九州産」は北海道と並ぶリージョナルブランドになれる——この発想の転換が、九州パンケーキの競争優位を生みました。自分のビジネスの「スケール」をどう定義するかで、戦えるマーケットが変わります。地域性はハンディキャップではなく、正しく設計すれば唯一無二の強みになります。

2. 「稼ぐことと地元愛は矛盾しない」——利益が出るから地元に還元できる

「地元を良くしたい」という想いだけでは、補助金やイベントに依存する活動を繰り返すだけです。村岡さんが気づいたのは「しっかりと稼ぐビジネスがあってこそ、地元への還元が継続できる」という当たり前の事実でした。理念と利益は対立するのではなく、利益があるから理念を実践し続けられる——この順序を間違えないことが、持続する地域貢献の条件です。

3. 「素人のひらめきが業界の常識を破る」——知らないことを恥じず、強みに変えろ

製粉業界の「常識」を知らなかったから、添加物なしで九州の素材だけのパンケーキを作れた。知識がないことは弱点ではなく、「なぜこうしなくていけないのか?」と問い続ける原動力になります。専門知識より「お客さんにとって本当に良いものは何か」というシンプルな問いを持ち続けることが、イノベーションの出発点です。


この記事で語りきれなかった『九州バカ』の魅力とは?

本書にはまだ紹介しきれていないエピソードが多くあります。

一つ目は、「シンガポール体験が視野を広げた」エピソードです。まちづくり活動で心が病んでいた2008年、タリーズコーヒー本社からシンガポール事業立ち上げのオファーが届きます。海外と宮崎を隔週で行き来する激務の中に身を置くことで、「まちの本質的な課題と自分自身の関わり方の問題」が初めて見えてきた。「逃げることを距離を置くこと」として肯定的に捉え直した体験が、九州パンケーキ開発への方向転換を後押しします。

二つ目は、「パンケーキブームのタイミングを読んだ経緯」です。2012年の九州パンケーキ発売は、ハワイアンパンケーキブームが全国に広がり始めたタイミングと重なります。「これは以前にも経験したことがある現象だ」——タリーズコーヒーがシアトルスタイルカフェを宮崎に持ち込んだときと同じ「新カテゴリーが日本に上陸する瞬間」だと見抜いた判断力は、現場で経験を積み重ねた村岡さんならではのものでした。

三つ目は、「本書全体に散りばめられた『起業マインドメモ』」の言葉の数々です。「没頭」「冷静」「離れる」「広がる」「切磋琢磨」——各章のコラムとして配置されたこれらのキーワードは、村岡さんが実体験から導いた経営の要諦を凝縮したものです。本文だけでなく、これらのメモを拾い読みするだけでも、地元創生起業のエッセンスが伝わってきます。

📚 [九州バカ——世界とつながる地元創生起業論(木楽舎)を読んでみる]


まとめ|村岡浩司さんが教えてくれること

「みんながそれぞれの持ち場を意識して、地域のために自分ができることをやっていけば、一人ひとりの力は小さくとも、やがて大きなムーブメントが生まれるでしょう」——本書に込められたメッセージです。

村岡さんが証明したのは、「地方だから世界と戦えない」という思い込みの誤りです。宮崎という小さな都市から、九州をひとつの島として再定義し、台湾・シンガポール・アメリカへと届けた。その原動力は、資金でも人脈でもなく、「地元を元気にしたい」という一点の想いでした。

本書『九州バカ』は、地元を愛するすべての経営者・起業家・まちづくりに関わる人への、実践的なエールです。ぜひ手に取ってみてください。


よくある質問

Q: 九州パンケーキとはどんな商品ですか? A: 九州全域の穀物を原料に使ったパンケーキミックスです。小麦粉(福岡県)、もち麦(熊本・大分県)、米粉(熊本県)、きび砂糖(沖縄・鹿児島)など、乳化剤・香料・加工澱粉を一切使わず九州の素材だけで作られています。2012年12月に発売され、国内約3000店舗・アメリカ211店舗の日系スーパーで販売。九州パンケーキカフェとして台湾・シンガポールにも出店しています。

Q: 村岡浩司さんはなぜ宮崎ではなく「九州」を名前に冠したのですか? A: 日本にはローカル(県単位)のブランドは多数ありますが、北海道以外にリージョナル(地域)ブランドがほとんど存在しないことに気づいたからです。「九州はひとつの島として捉え直したら、各県がバラバラに発信するより何倍もの価値が生まれる」という発想から、宮崎県の会社でありながら九州全体を冠するブランド名を選びました。

Q: 「地元創生起業」と「地方創生」は何が違うのですか? A: 「地方創生」は東京が主語となり中央から全国を見下ろすイメージがあります。一方「地元創生」は、それぞれの地域から主体的に湧き上がる創造を意味します。村岡さんは「中央官庁に収集されたどこかのまちの成功事例を横展開するやり方はすでに破綻しつつある」と指摘し、地元文化に根差したオンリーワンの未来創造が不可欠だと主張しています。


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参考文献:村岡浩司『九州バカ——世界とつながる地元創生起業論』(木楽舎)