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飯田結太|「営業方針はまさかの『売るな』」飯田屋6代目が語った実店舗復活と常識逆転の経営哲学

飯田屋6代目・飯田結太さんの著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を紹介するceobooks.jpの記事アイキャッチ画像

「あなたと働きたくないから辞めるんですよ」

半数を超えるスタッフが一斉に辞表を出した日、飯田結太さんはようやく本当の理由を知りました。

東京・浅草かっぱ橋の料理道具専門店「飯田屋」6代目。創業100年を超える老舗を受け継いだ飯田さんは、就任直後から「安売り競争」に突入し、ICレコーダーを持って近隣店の価格を盗み撮りするほどの本気で取り組みましたが、売上は全く上がらなかった。

そして「媒体に取り上げられる注目の店」になった矢先に、まさかの集団辞職——。

「この先に未来なんてない」「実店舗なんて終わったコンテンツだ」「アマゾンに奪われる」と言われ続けた飯田さんが、ゼロから見直した経営哲学は、営業方針「売るな」という常識破りのものでした。

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』は、その転換の全記録です。


飯田結太の経営思想の核心は「大切なことを大切にする」というシンプルな一点。
それだけを貫いたからこそ、ブラジルからも客が来る「料理道具の聖地」が生まれた。


飯田結太さんはどのような人物か(基本プロフィール)

氏名飯田結太(いいだ ゆいた)
出身東京都台東区西浅草
経歴創業100年超の料理道具専門店「飯田屋」を継承し6代目店主に就任→安売り競争で失敗→集団辞職を経験→「売るな」哲学による改革→「料理道具の聖地」として国内外から注目を集める
主な実績就任前比売上2倍、テレビ東京「カンブリア宮殿」出演。北海道・沖縄・ブラジルからも来客。「勇気ある経営大賞」受賞。オリジナルフライパン「エバーグリル」開発
著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)

「ICレコーダーで価格を盗み撮り」——なぜ安売り競争は完全に失敗したのか

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』は、壮絶な失敗の告白から始まります。

「かっぱ橋でいちばん安い店にしなければ、飯田屋に明日はない」と確信した飯田さんは、ニット帽に色つきメガネで顔を隠し、携帯電話で通話しているふりをしながらICレコーダーで近隣店の価格を録音しました。数カ月かけて同業者全店の価格を調査し、1円でも安い値付けを実現します。

しかし結果は「普段と売上がほとんど変わらない」というものでした。

「なぜ、みんなこんな素晴らしい方法を思いつかないんだ?」と本気で思っていた、と飯田さんは振り返ります。失敗の理由はシンプルでした。「薄利少売」状態——経営危機の零細企業が大量仕入れもできないまま安売りするというのは、最初から成立しない戦略だったのです。

さらに致命的だったのは「品質の崩壊」です。1円でも安く仕入れるために、日本製の高品質な道具が棚から消え、韓国製→中国製→バングラデシュ製→インド製へと品質が下がり続けました。長年の信頼で飯田屋を支えてきた祖父の代からの営業部長・加藤氏が「安売り競争には終わりがない、絶対にやめるべきだ」と猛反対したのに、耳を貸さなかった结果です。


「まさかの集団辞職で天国から地獄へ」——なぜ業績が改善しているのに人が辞めたのか

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』の最大の転換点が、集団辞職のエピソードです。

安売りを捨て、「1個在庫・多品種展示」という独自の戦略で差別化を図り、ブログで料理道具の知識を無料公開し始めたところ、メディアに取り上げられ「料理道具の聖地」と呼ばれるようになります。売上も増収増益へ——はずでした。

ところが、ある日突然、役職者を含む半数以上のスタッフが一斉に「辞めたい」と言い出します。理由を尋ねると全員「実家の母の体調が悪い」という同じ言葉。「なぜ、こうも一斉に家族の具合が悪くなるのか」と理解できなかった飯田さんに、退社する従業員の一人が最後に告げました。

「最後だから言いますけど、あなたと働きたくないから辞めるんですよ」

飯田さんは当時の自分が「間違っていた『いい会社』の4条件」に縛られていたことを振り返ります——給与改善・休暇増加・福利厚生充実・「働いていることが恥ずかしくない会社」。これらを整えれば社員は幸せになる、という思い込みです。しかし根底には「売上がなければ会社は継続できない」という恐怖心があり、正論という名の「一方的な暴力」を社員に振るい続けていた、と気づきます。


「3人の神様」——なぜ飯田さんの人生は180度変わったのか

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』のターニングポイントが、「神様」との出会いです。

1人目の神様は割烹着姿の料理人。「私はお客さまに幸せを届けるために料理をしている。道具を通じて料理人の幸せをお手伝いするのがあなたの仕事ではないですか?」という一言が、「売上を上げる店」から「お客様を喜ばせる店」への転換の起点になりました。

2人目の神様はスーツ姿のビジネスマン。「あなたは商品を売っているのではなく、お客様の幸せを商品に込めて届けているのではないですか?」——この言葉で「喜ばせ業」という飯田屋の存在意義が定まりました。

3人目の神様との出会いで、「大切なことを大切にする」というシンプルな経営の原点に辿り着きます。これは創業から100年以上続く「飯田屋の常識」でもありました。

この3つの出会いを経て、飯田さんは営業方針を「売るな」に変え、ノルマと売上目標を廃止し、「お客様に必要のない商品を無理に売りつけたら減給」という仕組みを導入します。


「常識を疑い、理念を軸に会社を改革した」経営者の事例は他にもあります。


「過剰在庫バンザイ!」——なぜ在庫回転率を無視することが飯田屋の強みになるのか

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』のビジネスモデルの核心が「1個在庫・多品種展示」と「過剰在庫」の哲学です。

かっぱ橋には100店舗以上の同業者があります。同じ売れ筋商品を仕入れれば、飯田屋が選ばれる理由はなくなる——そこで飯田さんが選んだのが、「大手企業が見向きもしない”売れな筋”の魅力を伝えること」でした。

おろし金は230種類。年に1個しか売れない商品でも、スタッフ全員で探します。19世紀から続くドイツの職人家族が作る1枚2万円の鉄製フライパン「ターク」は、倉庫から在庫を全部出してお客様が1枚ずつ見比べて気に入ったものを選べるようにします。

「人のため、世のため」ではなく「人のため、世のため」の順番——目の前の一人のために、年間1個しか売れないミトンでも在庫に加え続ける。それがブラジルから飯田屋を訪れるお客様を生み出します。「在庫回転率より在庫仰天率」というキーワードが、飯田屋の在庫哲学を一言で表しています。


「感謝の時間」と「マイカード」——なぜ朝礼・終礼に1時間かけるのか

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』の組織論の核心が、朝礼と終礼への投資です。

飯田屋の朝礼と終礼には合わせて1時間をかけます。特に「感謝の時間」と呼ばれる終礼では、スタッフが互いの良い行動を共有し合います。「互利互理」という言葉を大切にするスタッフ・杉山さんが在庫を全部出してお客様に1枚ずつ選んでもらう接客をした話が、この時間で共有され、全員が真似を始めました。

「マイカード」は、スタッフがお客様から受け取った手紙やメッセージを個人として受け取れる仕組みです。会社宛のお礼状ではなく、「田代さんへ」という個人宛の感謝が届く——これがスタッフの自信と誇りを育てます。「行列ができる販売員」と呼ばれるスタッフが生まれる背景には、この個人を認める文化があります。

「お客様に心から売りたいと思う商品以外は売ってはならない」——この方針とセットで、アルバイトは年間300万円、正社員は500万円、役職者は2000万円まで自由に使える裁量権を持ちます。信頼を与えることで、スタッフは「売らなくていい」を本気で実践できるようになります。


飯田結太さんのこだわりとは?

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』を通じて、飯田さんという経営者の核心が見えてきます。

「蝶ネクタイとトリッキーな髪型」:テレビ出演の際、「少しでも印象に残るように」蝶ネクタイと独特の眼鏡・髪型で出演し始めたのが今のトレードマークの原点です。「おぼえてもらうためならなんでもやる」という必死さから生まれたビジュアルが、飯田屋を象徴するアイコンになりました。

「うらずかな」の経営:「売らんかな(何がなんでも売る)」に対して、飯田さんが掲げるのは「うらずかな」という独自の言葉です。「売らずかな」(合わないと思えば売らない)、「裏付かな」(使い比べた裏付けのある商品しか売らない)、「裏ずかな」(裏で数字を気にしない正直な商いをする)の三つの意味を込めています。

「引き算の経営」:月2回の定例会議を廃止しました。「足し算ばかりをすると経営は複雑になり、お客様の存在が遠くなる」——何をやめるかを決める勇気が、本当に守りたいものを見えやすくすると飯田さんは言います。テレビ通販からの出演オファーも断ります。「売上目標があれば、必要ない人にも売らなければならなくなるから」。


飯田結太さんゆかりの地とは?

東京・浅草かっぱ橋(活動の場所・聖地):100店舗以上の同業者が集まる「道具街」で、最大のライバルに囲まれながら「料理道具の聖地」に育てた場所。「立地が悪い」「便利でもない商店街」と言われながら、北海道・沖縄・ブラジルからもお客様が訪れるようになった実店舗の奇跡の現場です。

メディアの現場(転換点の場所):テレビ番組への出演が飯田屋の知名度を一気に上げました。しかし同時に集団辞職というどん底も経験した場所でもあります。「世間から注目されるいい会社で働いているのに、どこに不満があるんだ」という経営者としての思い上がりを打ち砕かれた体験が、「大切なことを大切にする」という原点への回帰につながりました。

職人の町工場(商品開発の場所):修理依頼を受けたスタッフが、カタログにない部品を求めて近隣の町工場を訪ね歩く——この出会いが新たな職人ネットワークを生み、オリジナルフライパン「エバーグリル」の開発につながりました。「料理道具の最後の砦」としての使命感が生まれた場所でもあります。


飯田結太さんから学ぶ、3つの教訓とは?

1. 「安売りは資金力のある大企業の戦略だ」——小さな店は真逆の方向で差別化する

経営危機の零細企業が安売りに参入するのは「薄利少売」状態を生むだけ——この失敗は、業種を問わず多くの中小企業が陥る罠です。飯田さんが辿り着いた答えは「大手が見向きもしない売れな筋の魅力を、日本でいちばんわかりやすく伝えること」でした。コスト競争ではなく価値の独自性で勝負する。小さいことが弱点ではなく「お客様にかけられる時間が物理的に長い」強みになる逆転の発想です。

2. 「給与・休暇・福利厚生は人が辞めない条件ではない」——大切なのは『一緒に働きたい人』かどうかだ

業績が改善し、給与を上げた直後にも人は辞めていった——飯田さんの失敗が示すのは、待遇の改善だけでは組織の根本は変わらないという事実です。「大切にしたいことを大切にしてもらえる環境」「嘘をつかなくていい職場」「自分が心から売りたいと思う商品だけを売れる仕事」——これらが揃ってはじめて、人は長く働き続けます。

3. 「人のため、世のため」の順番を間違えるな——身近な一人から始める

「世のため、人のため」という順番で大きな旗を振りかざしても、振り返ると誰もいなかった——飯田さんの痛烈な自戒です。スタッフを犠牲にして「業界全体を盛り上げる」ことに突き進んだ結果、スタッフの離婚という悲劇を招きました。まず目の前の一人を喜ばせることから始める。その積み重ねが、ブラジルからお客様が来るほどの信頼に育っていきます。


この記事で語りきれなかった『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』の魅力とは?

本書にはまだ紹介しきれていないエピソードが多くあります。

一つ目は、「オリジナルフライパン『エバーグリル』誕生物語」です。「業界常識という壁」に何度も跳ね返されながら、本物を目指した職人との粘り強い開発が続きます。「勇気ある経営大賞」への挑戦という形で業界の信頼を勝ち取り、常識の壁を一つずつ崩していくプロセスが第3章に詳しく書かれています。

二つ目は、「行列ができる販売員」田代容子さんのエピソードです。「この世にあるか、調べてみます!」というキラーフレーズで顧客を魅了する彼女は、見つからなければ設計図を自分でつくってメーカーに提案するほど。彼女のまわりにはいつも笑顔があふれ、お土産を持って来店するお客様まで現れます。「行列ができる繁盛店ではなく行列ができる販売員」——個人の信頼が店の価値をつくる飯田屋のあり方を象徴するエピソードです。

三つ目は、「修理の最後の砦」という飯田屋の役割です。「うちで断ったら、どこに行っても修理してもらえないかもしれません」というスタッフ・藪本さんの言葉。カタログになければ町工場を訪ね歩き、断られても熱意で受けてもらえる職人を探す——修理対応を通じて「道具に宿る魂」への向き合い方を体現しています。

📚 [浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟(プレジデント社)を読んでみる]


まとめ|飯田結太さんが教えてくれること

「実店舗なんて終わったコンテンツだ」と言われ続けた実店舗が、アマゾンが大きくなるほどに売上が増え、ブラジルからも客が来るほどの聖地になった——それは奇跡ではなく、「大切なことを大切にする」という100年続く原点に立ち返った結果でした。

安売り競争の失敗、集団辞職という挫折を経て辿り着いた「売るな」という哲学は、逆説的に聞こえますが、「本当に喜んでもらえる一人のために動く」という商いの本質そのものです。

本書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』は、家業を継いだ後継者だけでなく、価格競争に疲れたすべての経営者・ビジネスパーソンへのエールです。ぜひ手に取ってみてください。


よくある質問

Q: 飯田屋はなぜ「売るな」という営業方針なのですか?

A: 「お客様に必要のない商品を無理に売りつけることは減給」という仕組みで運営されています。売上目標やノルマも廃止しています。理由は「目の前のお客様に真摯に向き合うため」。ノルマがあると無意識に高い商品を売ろうとする心理が働くため、それを取り除いた結果、逆に売上と利益が上がったと飯田さんは語っています。

Q: 飯田屋の「過剰在庫」戦略はなぜ機能するのですか?

A: 「在庫回転率より在庫仰天率」を重視することで、「こんなものまである!」というお客様の驚きと喜びを生み出しています。大手企業が取り扱わない年1個しか売れない商品でも在庫する。それがブラジルや沖縄・北海道からもわざわざ来店するお客様を生む「料理道具の聖地」としての価値の源泉です。

Q: 飯田屋の集団辞職から何を学べますか?

A: 業績が改善し給与を上げても人は辞めた——「いい会社の4条件(給与・休暇・福利厚生・恥ずかしくない会社)」を揃えても組織の根本は変わらないという教訓です。飯田さんが辿り着いた答えは「一緒に働きたいと思える人間でいること」「嘘をつかなくていい環境をつくること」。経営の数字より、一緒に働く人間同士の信頼が組織の土台だということです。


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参考文献:飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)