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なぜサイゼリヤは「おいしいから売れる」を捨てたのか|正垣泰彦『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』

なぜサイゼリヤは「おいしいから売れる」を捨てたのか|正垣泰彦『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』

青果店の2階、人目につきにくいその店に、お客様はほとんど来ませんでした。深夜まで営業時間を延ばしても集まったのは地元のならず者ばかりで、ある夜、客同士のけんかで石油ストーブが倒れ、店はそのまま燃えてしまいました。開店から、たった7カ月後のことでした。

避難する人たちを最後まで見送った店主は、気づけば煙に巻かれていました。勝手口へどうにかたどり着いて脱出したものの、あのとき死んでいてもおかしくなかったと、後に本人が振り返るほどの出来事でした。

その焼け跡から、後に国内外で千を超える店を展開する巨大チェーンを育て上げたのが、サイゼリヤ創業者の正垣泰彦さんです。この記事は、正垣さんが40年以上の経験を綴った著書『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』をもとに、勘ではなく数字で店をつくり変えた「科学的経営」の中身を読み解きます。

正垣泰彦さんの経営思想を一言で表すなら「天動説からの脱却」です。自分の店の料理はうまいと信じ込む思考を捨て、物事をありのままに見て数字で検証する。それが、悪立地の焼け跡を行列店に変えた出発点でした。

項目内容
氏名正垣泰彦(しょうがき やすひこ)
生年1946年
出身兵庫県朝来郡生野町(現・朝来市)
学歴東京理科大学理学部物理学科 卒業
会社サイゼリヤ(創業者・代表取締役会長)
創業1967年、千葉県市川市本八幡でレストラン「サイゼリヤ」を開店
本書の主題火事や不振を乗り越え、数字で検証する「科学的経営」で外食チェーンを築いた40年余りの記録
著書正垣泰彦『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫、2016年)

なぜ焼け跡の悪立地で、正垣さんは店を再開したのか

火事で店を失った正垣さんは、真剣に廃業を考えました。店ははやっていませんでしたし、残ったのは借金だけ。再開するにも、さらに借金を重ねなければなりません。やめる口実はいくらでもありました

しかも最初の店は、青果店の2階という人目につきにくい悪立地です。おまけに火事にまで遭ったのですから、「この場所で店をやるな」という神の啓示だと本気で思っていた、と正垣さんは書いています。再開するなら、せめて別の場所で——そう考えるのが自然でした。

ところが、そこで母親から驚くべき言葉をかけられます。「あの場所はお前にとって最高の場所だから、もう一度、同じ所で頑張りなさい」。お客様が来ないことを立地のせいにせず、来てもらえるようひたむきに努力することが、最高の経験になる。母はそう諭してくれたのだと、正垣さんは受け止めました。

この言葉が、正垣さんの経営観の土台になりました。立地の「いい」「悪い」を決めているのは、お客が来るように努力することを諦めているかどうかにすぎない。 お客が来ないのを立地のせいにするのは、努力を放棄しているのと同じだと気づいたのです。

「立地」や「人材」や「景気」といった、自分では変えられない条件にとらわれるのは、太陽が地球の周りを回っていると信じた昔の世界観「天動説」と同じだ——正垣さんはそう表現します。今ある店や人材は、自分が手に入れられる最高のものだと思ってみること。そうして初めて、「どうすればもっとお客が来るか」だけに集中できるようになりました。

では、八百屋の2階という悪立地に、正垣さんはどうやってお客様を引き寄せたのでしょうか。答えは、意外なほど大胆なものでした。

相場の7割引き——1日20人の店が、600人の行列店に変わった日

商品に値打ちがあれば、場所が悪くてもお客様は来るはずだ。そう考えた正垣さんは、まずメニューを5割引きにしました。それでも来ない。ならばと、最終的に価格を相場の7割引きにまで引き下げたのです。

スパゲティの価格帯は150〜200円。ラーメンより安い値付けでした。作業量から考えればパスタがラーメンより高いのはおかしい、という正垣さんの直感が、この思い切った価格に踏み切らせました。

すると、光景が一変します。青果店に積まれたキャベツや玉ねぎの山を越えて、ずらりとお客様が並んだのです。客数は1日20人から一挙に600〜800人へ。店舗面積はわずか17坪・38席でしたから、1日20回転という驚異的な数字になりました。

とても1店ではさばききれず、市内に4〜5店を出して最寄りの店に行ってもらう。これが、サイゼリヤの多店舗化の始まりでした。焼け跡の悪立地が、行列の絶えない繁盛店に生まれ変わった瞬間です。

ここで正垣さんが得た確信は、後の社名を冠した書名そのものになりました。すなわち、「おいしいから売れるのではない、売れているのがおいしい料理だ」という逆転の発想です。自分の店の料理はうまいと思い込むことこそ悲劇の始まりで、そう考えた途端「売れないのはお客が悪い、景気が悪い」と改善が止まってしまう。

正垣さんにとって、お客様が喜んでいるかどうかを測る唯一のバロメーターは「客数」でした。何かを試して客数が増えれば正しい行動だから続ける。減れば間違いだからやめる。抽象的に「顧客満足度を高めよう」と言うより、はるかに客観的に検証できるというのが、その理由でした。この徹底した数字志向は、やがて店全体を貫く思想へと育っていきます。

正垣さんが「科学」と呼ぶ、勘に頼らない経営とは

物理学科の出身である正垣さんは、経営を語るときに繰り返し「サイエンス(科学)」という言葉を使います。科学は実験を通して、自分の仮説(思い込み)が間違っていることを教えてくれる。自分中心に物事を考える「天動説」の対極にあるもの——それが正垣さんの経営観でした。

人間は何かを考えるとき、先例や成功体験をもとに、自分に都合の良い結論を導き出してしまいます。たとえば店で一番売れている料理を見て「おいしいから売れている」と思い込む。しかし近所の繁盛店では同じ料理が何倍も売れているとしたら、それは「魅力があるから」ではなく「他の料理よりましだから、やむを得ず選ばれているだけ」かもしれません。

だからこそ正垣さんは、店で起きるあらゆる現象を観察し、可能な限り数値や客観的なデータに置き換えて因果関係を考えることを習慣にしました。客観的な事実に基づいて仮説を立て、実行し、検証する。「これはサイエンスの手法そのものだ」と本書は述べます。

ここで正垣さんが勧めるのが、独特な自問です。「なぜ、そうしたことが起きているのか?」と考えるだけでなく、「なぜ自分はそう思うのか?」と何回も問い直すこと。「売れないのは立地が悪い」と思ったなら、「本当にそうか? 悪立地でも繁盛している同規模の店を調べてみよう」という行動につながる。この一手間が、判断の精度を決定的に変えました。

自分の店の料理やサービスは、まだまだ大したことがない——そう自戒し続けることが、正しい経営判断への近道だった。

不思議なもので、大ピンチのときほど正しい判断ができる経営者は多い、と正垣さんは言います。切羽詰まると、何かを他人のせいにする余裕がなくなり、自分の問題として事象を見られるようになるからです。焼け跡から立ち上がった正垣さんの言葉だからこそ、この一節には重みがあります。科学的な検証を積み重ねる姿勢は、やがて数字そのものへの徹底したこだわりへとつながっていきました。

なぜサイゼリヤの店長には、売上目標が無いのか

サイゼリヤには、多くの飲食チェーンと決定的に違うルールがあります。それは、店長に売上目標を課していないことです。

理由は明快でした。店の売上は「立地」「商品」「店舗面積」で決まるもので、店長の努力が及ぶ範囲ではない。売上が悪くなるとすれば、それは商品開発をする本社の責任であって、店長のせいではない——正垣さんはそう考えました。

では店長の仕事は何かといえば、人件費や水道光熱費といった経費をコントロールすることです。もし「売上を何とかしろ」と迫れば、店長は販促にお金を使うしかなくなり、慣れない急な客数増で現場が疲弊するだけ。利益は「売上」ではなく「無駄をなくすこと」から生まれる、というのが正垣さんの一貫した主張でした。

その利益を測るために、正垣さんが創業時から最も重視した指標が「人時生産性」です。1日の粗利益額を、その日働いた従業員全員の総労働時間で割ったもので、飲食店の標準は1時間あたり2000〜3000円ほど。サイゼリヤはこれを、他産業並みの待遇を実現するために必要な水準として、1時間あたり6000円という高い目標に置いていました

正垣さんが数字にこだわったのは、冷たい合理主義からではありません。飲食業で働く人の賃金は他産業より低く、40代、50代まで働き続けにくい。創業以来の仲間や、これから雇う社員に、定年まで十分な給料を払いたい——その切実な願いが、すべての出発点でした。だから客単価は上げず、客数を増やす。売上を今の1000倍にしよう、店を1000店つくろうと、夢のような目標を掲げたのです。

投資の判断も徹底して数字で行いました。新規出店では、投下資本利益率(ROI)や総資産利益率(ROA)が20%以上になる見込みがなければ、借金をしてまで店を出さない。「商売はギャンブルではない」というのが口ぐせでした。本書には、原価率や粗利益率、家賃比率まで、繁盛店を持続させるための具体的な数式が惜しみなく記されています。数字で守られたその土台の上で、正垣さんは料理そのものにも科学のメスを入れていきました。

「おいしさ」を点数化した、物理学者あがりの店主

「この料理はおいしい」「コクがあってうまい」——正垣さんは、こうした主観的で抽象的な評価に強い疑問を抱いていました。3〜4店を経営していた頃、何とか点数化できないものかと考え抜いた末に生まれたのが、独自の評価手法です。

料理や食材を「ルック(見た目)」「アロマ(食前の香り)」「ティスト(味)」「フレーバー(食後の香り)」「プライス(価格)」という5つの要素に分け、それぞれ1〜4点、満点20点で採点する。おいしさの評価に「価格」が入っているのは、お値打ち感がなければお客はその料理をおいしいとは思わない、という信念からでした。

看板商品の「ミラノ風ドリア」では、正垣さんはアロマ・ティスト・フレーバーの改良を1000回以上繰り返してきました。お客様には分からないほどの微調整ですが、その影響で注文数は増えたり減ったりする。「なお、私の予想が外れることも決して珍しくない(笑)」と正垣さんは書きます。おいしいかどうかを決めるのはお客様であって、自分ではない——ここでも、天動説を退ける姿勢が貫かれていました。

料理の味の良しあしは、正垣さんの持論では80%が食材で決まり、料理人の技能などその他の要因は残りの20%にすぎません。だからこそ食材の品質の下限を死守することにこだわり、200店規模になるまで、正垣さんは仕入れから検質(品質の検品)まで自分で担っていました

その仕入れも徹底していました。夜遅くまで店で働いた後、車で仕入れ業者の倉庫の前まで行き、そこで寝て朝一番を待つ。状態の良い食材を自分の目で自由に選ぶためです。学生時代に青果市場でアルバイトをし、「競り」を手伝った経験から、同じ時期・同じ場所に入荷する野菜でも品質が随分違うことを、正垣さんは体で知っていました。本書には、こうした食材選びの具体的な着眼点が、いくつも書き込まれています。この「ありのままに見る」姿勢は、遠く離れた中国の店でも、正垣さんを救うことになります。

中国事業を救った、ニトリ・似鳥さんの一言

サイゼリヤが中国・上海に進出したのは2003年のこと。外国の外食企業として初めて、単独出資の子会社による進出を許可されました。ところが、当初は大苦戦を強いられます

提供価格は日本のサイゼリヤとほぼ同じ。日本から進出した他の外食チェーンに比べれば十分安いはずでしたが、始めてみるとお客様が全く来ませんでした。社内からは「中国の人はサイゼリヤで食事できるほどお金を持っていないのでは」「値上げで収益を確保しよう」という声すら上がります。

そんなとき、正垣さんに助言をくれたのが、チェーンストア理論を学ぶ「ペガサスクラブ」で友人になったニトリの似鳥昭雄さんでした。「中国の物価水準から見ると、今のサイゼリヤの価格は高過ぎる。大幅な値下げが必要だ」。それは、正垣さん自身の問題意識とぴたりと重なる指摘でした。

中国の担当者は「値上げしないと潰れる」とまで言いました。しかし正垣さんは、中国進出が「安くて良質なイタリア料理を食べてほしい」という理念に基づくものだったことを思い出します。「どうせ潰れるなら、価格を安くして潰れるほうが気分が良い」。そう言って、創業期と同じ大胆な値下げに踏み切りました。

まず5割の値下げ。それでもインパクトが弱いと、最終的に7割ほど引き下げます。すると直後から、1日100人ほどしか来なかった店に1日3000人が押しかけ、行列は一日中絶えなくなりました。近所で弁当を買って食べながら順番を待つお客様まで現れたといいます。

この経験から正垣さんが得た教訓は、シンプルでした。「利益が出ないというのは、社会への貢献が不十分な状態だ」。価格を下げて現地の人に喜ばれる店になって初めて、利益は出るようになったのです。ちなみに、正垣さんの柔軟さについては、似鳥さん自身が本書の巻末で「何百人もの経営者に助言してきたが、それをすぐ実行に移したのは正垣さんを含めほんのひと握りだ」と証言しています。数字と理念で店を動かす一方、正垣さんは社員の心を一つにすることにも心を砕いていました。

「人のため・正しく・仲良く」——正垣さんが唱え続けた理念

サイゼリヤの経営理念は、「人のため・正しく・仲良く」という飾り気のない言葉です。これは創業期の悪戦苦闘から生まれた、正垣さんの原体験そのものでした。

「人のため」の「人」とは、お客様のこと。お客様に喜ばれたかを測るバロメーターを客数と捉え、客数を増やすことを最優先に考えようという意味です。常連客が増えれば、売上も利益も後からついてくる。行列ができ、店に入りきらなくなって近くに別の店を出した、あの多店舗化のきっかけがそのまま理念になりました。

「正しく」とは、会社も従業員もお客様も喜ぶことを、みんなで話し合ってより良くしていくこと。そのためにサイゼリヤはあらゆる作業を「標準化」してきました。標準化のコツは、一番優秀な人間の“名人芸”を、誰にでもこなせるようにできないかと考えることだ、と正垣さんは説きます。

「仲良く」は文字通り、従業員みんなで仲良くやること。そのために欠かせないのが公正で客観的な評価でした。人は自分が正しく評価されていると思うから頑張れる。どんなスキルを身につけると時給がいくらになるかを、正垣さんは従業員に全て公開していました。

しかし、理念というのは掲げるだけあって、実践し続けるのが難しいものです。「お客様のために頑張ろう」と誓い合った1時間後に「今、そう考えて働いていた?」と聞けば、きっと「いいえ」と答えるだろう、と正垣さんは笑います。だからこそ、経営者は自社の理念を従業員に言い続けなければならない理念は忘れるものだ。だから、唱え続ける。 これが正垣さんの結論でした。

そして正垣さんは、人材育成に何より力を注ぎます。社員の能力を左右するのは「知識が2割、経験が7割、経営哲学の理解が1割」。だから定期的な人事異動で経験を積ませ、苦手な仕事も任せてみる。「成功する人は、誰よりも失敗した人」という信念のもと、失敗を歓迎する組織をつくりました。本書には、こうした組織づくりの思想が、随所に語られています。

正垣泰彦さんのこだわりとは?

経営の話が続きましたが、ここで少し、正垣泰彦さんという人そのものに目を向けてみましょう。本書には、その人柄がにじむ習慣が描かれています。

一つは、朝一番の仕入れという習慣です。夜遅くまで店で働いた後、正垣さんは車で仕入れ業者の倉庫の前まで行き、そこで寝て朝を待ちました。朝一番なら、状態の良い食材の中から自分の目で自由に選べるからです。食肉、鮮魚、野菜と曜日ごとにローテーションを組み、常に自分の足で市場へ通う。良い食材は誰かに任せず、自分の目で選び抜く——それが正垣さんの譲れない流儀でした。

もう一つは、「検質」を自分の手から離さなかったことです。仕入れた食材が基準を満たしているかを確かめる検品には、量を調べる「検数」と、品質を調べる「検質」があります。多くの店が検数どまりのなか、正垣さんは200店規模になるまで検質を自分でやり続けました。食材を見極める力は、経験とセンス、そして「真剣さ」が問われる仕事で、それを最も兼ね備えているのは経営者にほかならない、と考えていたからです。

こうした地道な習慣の一つひとつが、サイゼリヤの品質を支えていました。その足跡は、正垣さんが店を興した土地にも刻まれています。

正垣泰彦さんゆかりの地とは?

正垣泰彦さんの原点は、いくつかの土地に残されています。本書の世界をより深く感じたい方のために、ゆかりの地を紹介します。

まず、すべての始まりの地、千葉県市川市の本八幡。青果店の2階に開いた1号店が火事で焼け、それでも同じ場所で再開し、相場の7割引きで行列店に生まれ変わった舞台です。父が知り合いの紹介で見つけてきた、まったくの偶然から始まった物件でした。(地図で見る

次に、正垣さんが早朝に通い詰めた東京・上野のアメ横。まだ車もトラックもなかった創業期、乾物やチーズ、パスタをリュックに詰めて電車で運んだ、原点の問屋街です。「食材はできるだけ供給元に近いところから」という信念が、この場所で鍛えられました。(地図で見る

そして、正垣さんの理念が生まれたイタリア。40年以上前に欧州を視察し、コース料理とワインを自由に組み合わせて楽しむ食の豊かさに出会ったことが、サイゼリヤのすべての出発点でした。(地図で見る

土地をたどると、焼け跡の悪立地から、世界を見据えたチェーンへと歩んだ一人の商人の軌跡が立体的に見えてきます。では、その軌跡から私たちは何を学べるのでしょうか。

正垣泰彦さんから学ぶ3つの教訓とは?

本書が現代の私たちに伝えるものを、ここでは3つに絞ってお伝えします。

一つめは、うまくいかない原因を、外に求めないということです。火事で焼けた悪立地を前に、正垣さんは「立地のせい」にせず、7割引きという努力で行列店に変えました。立地や景気を言い訳にするのは「天動説」と同じで、物事を正しく見られなくなる。原因は自分の中にあるという前提に立つことが、突破口を開きました。

二つめは、「おいしい」を思い込みでなく、数字で捉えるということです。正垣さんは客数を満足のバロメーターとし、おいしさすら5要素で点数化しました。「自分の店の料理はうまい」と思った瞬間に進歩は止まる。だからこそ、売れているという事実こそがおいしさの証拠だと捉え、検証を回し続けたのです。

三つめは、利益は目的でなく、社会貢献の結果であるということです。「儲ける」のではなく「儲かる」ようにする。お客様に喜ばれることを最優先にすれば、利益は自然についてくる。中国事業を7割値下げで立て直した経験は、「利益が出ないのは社会貢献が不十分な状態だ」という正垣さんの哲学を、鮮やかに証明しました。

これらの教訓は、ほんの入り口にすぎません。本書には、ここでは紹介しきれなかった正垣さんの試行錯誤が、まだまだ詰まっています。

この記事で語りきれなかった『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』の魅力

正垣泰彦さんの歩みをたどってきましたが、本書の魅力はこれだけではありません。記事では触れられなかった、印象深い3つの内容を紹介します。

一つめは、セントラルキッチンとカミッサリー(工場)をめぐる格闘です。店数が3店になった頃、正垣さんは運搬による食材の劣化に気づきます。「温度」「湿度」「経過時間」「振動」の4つが、いかに食材を傷めるか。この気づきから、農場からトラック、工場、厨房まで温度を4度に保つ仕組みが生まれる過程は、製造直販業としてのサイゼリヤの核心です。

二つめは、オリーブオイルへの25年越しのこだわりです。日本でほとんど知られていなかったオリーブオイルを本場の味で届けたい。しかし在庫を置くと酸化してしまう。この難題を、チェーン化して大量に使うことで解決するまでの道のりが、本書には丁寧に描かれています。

三つめは、正垣さんが師と仰いだ渥美俊一先生との思い出です。チェーンストア理論を教えた「ペガサスクラブ」の主宰者であり、正垣さんが43歳のとき「種をまいて実るのは50歳を過ぎてから」と励ました恩師。その教えがサイゼリヤの土台にどう生きたかは、経営を志す人の胸を打ちます。

これらのエピソードは、ぜひ本書で味わってみてください

📚 『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫)を読んでみる

まとめ

正垣泰彦さんは、青果店2階の悪立地で火事に遭いながら、料理を相場の7割引きにして行列店をつくり、そこから数字で検証する「科学的経営」で外食チェーンを築いた経営者でした。

店長に売上目標を課さず経費だけを管理させ、おいしさを5要素で点数化し、仕入れの検質を自ら担い、中国事業を7割値下げで立て直す。その一貫した姿勢は、「おいしいから売れるのではない、売れているのがおいしい料理だ」という逆転の発想に集約されています。自分の店の料理はうまいという思い込み(天動説)を捨て、お客様本位で物事をありのままに見る。その先にしか、繁盛は続かないと正垣さんは説きます。

火事で燃え尽きた焼け跡から始まった物語は、逆境をチャンスと捉え、勘ではなく事実に立って改善を重ねることの強さを、静かに語りかけてきます。正垣さんの肉声で綴られた本書は、言い訳を捨てて自分の足元を見つめ直すための一冊です。

📚 『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫)を読んでみる

よくある質問(FAQ)

Q. 正垣泰彦さんとはどんな人物ですか?

A. サイゼリヤの創業者で、代表取締役会長を務める経営者です。1946年生まれ、兵庫県の出身で、東京理科大学理学部物理学科を卒業しました。1967年に千葉県市川市で開いた1号店を火事で失いながら再建し、料理を相場の7割引きにして繁盛店に育て、国内外に広がる外食チェーンを築きました。存命です。

Q. 『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』はどんな本ですか?

A. 正垣さんが40年以上の経験で学んだ経営を、外食業界に向けて綴った一冊です。人時生産性やROI、原価率といった数字の考え方から、「人のため・正しく・仲良く」という理念、食材や立地への向き合い方まで、勘に頼らない「科学的経営」の実践が具体的に語られています。

Q. サイゼリヤの経営理念は何ですか?

A. 「人のため・正しく・仲良く」です。「人のため」はお客様に喜ばれることを客数で測り最優先にすること、「正しく」は作業を標準化して一定の品質を保つこと、「仲良く」は従業員を公正に評価することを意味します。創業期の苦労から生まれた、正垣さんの原体験そのものの言葉です。

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参考文献

正垣泰彦『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫、2016年)