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1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した。
探し続けた叔母夫婦と対面できたのは、地元の学校に設けられた一時遺体安置所だった。たくさんの遺体を目の当たりにした30歳の三木谷浩史さんは、痛感した。人の命はあっさり奪われてしまうことがあると。
「一度きりの人生を思い切り生きなければならない。いつかではなく、今すぐにやりたいことをすべきなのだ」
その年、三木谷さんは日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を退職する。そして2年後の1997年、本城慎之介さんと2人で楽天市場を立ち上げた。
『楽天流』は、楽天を世界的企業に育てた三木谷さんの経営哲学をまとめた一冊です。英文で先行出版されハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディにも選ばれた本書をもとに、7つの哲学を解説します。
目次 表示
- 三木谷浩史さんの基本プロフィール
- 震災が変えた人生——「今すぐやりたいことをすべきだ」
- 経営哲学①|「常に改善、常に前進」——毎日1%の改善が37倍の差を生む
- 経営哲学②|「プロフェッショナリズムの徹底」——情熱なき専門家に意味はない
- 経営哲学③|「仮説←実行←検証←仕組化」——砂場の子どもが実践していること
- 経営哲学④|英語化(Englishnization)——ルールを書き換える最大の実験
- 経営哲学⑤|「海賊時代の終わり」——エンパワーメントが未来のビジネスを制する
- 経営哲学⑥|「ディスカバリー・ショッピング」——自動販売機ではなく、バルセロナの市場を
- 経営哲学⑦|「スピード=スピード=スピード」——三木谷曲線と完璧よりも速さ
- 三木谷さんの失敗談|TBS買収はなぜ失敗したか
- 三木谷さんのこだわりグッズ
- 三木谷さんゆかりの地
- 三木谷さんから学ぶ、経営者への3つの教訓
- この記事で語りきれなかった三木谷さんの魅力
- まとめ|三木谷浩史さんが教えてくれること
三木谷浩史さんの基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 三木谷浩史(みきたに・ひろし) |
| 生年 | 1965年(兵庫県神戸市) |
| 経歴 | 一橋大学卒→日本興業銀行→ハーバードMBA→楽天創業 |
| 主な実績 | 楽天市場開設(1997年)、社内公用語英語化(2010年)、東北楽天ゴールデンイーグルス創設 |
| 座右の哲学 | 「ルールを書き換える」——既存の常識を疑い、より良いやり方を見つける |
| こだわり | スピード、KPI、グローバル化、ディスカバリー・ショッピング |
| ゆかりの地 | 神戸(出生)、東京・品川(楽天本社)、仙台(楽天イーグルス)、バルセロナ(楽天市場デザイン変更の原点) |
震災が変えた人生——「今すぐやりたいことをすべきだ」
三木谷さんは高校のテニス部時代から「おかしいルール」に異を唱え続けてきた人物です。後輩が先輩のボール拾いをしなければならない慣習に「いくらボール拾いをしてもテニスが上達することはない」と反発し、大学3年でキャプテンになった瞬間、真っ先にそのルールを撤廃しました。
しかし、日本興業銀行という名門企業に就職し、ハーバードでMBAを取得してもなお、「いつか起業を」という思いはぼんやりしたままでした。
その思いを「今すぐ」に変えたのが、1995年の阪神・淡路大震災です。
「この時はじめて僕は自分もいつか必ず死ぬことを意識した。そして、こう思った。一度きりの人生を思い切り生きなければならない。いつかではなく、今すぐにやりたいことをすべきなのだ」
周囲のほとんどは反対しました。しかし父は「いつかこうなるだろうと思っていたよ」と言い、興銀の上司は「いつでも戻ってこい」と送り出してくれた。三木谷さんはコンサルティング業を経て、1996年に創業の準備を始めます。
経営哲学①|「常に改善、常に前進」——毎日1%の改善が37倍の差を生む
楽天本社の廊下には「楽天主義」の根幹を成す「成功の5つのコンセプト」が書かれたポスターが貼られています。全社員のIDカードの裏にも記されているこの5つは、三木谷さんが創業初期から時間をかけて築いてきた企業文化の柱です。
その筆頭が「常に改善、常に前進」——いわゆるカイゼンの精神です。
三木谷さんはその効果を数字で示しています。毎日1%の改善を1年間続けると、パフォーマンスは1.01の365乗になる。その答えは37.78。毎日たった1%の改善を1年間続けるだけで、スタート地点の37倍を超えるのです。
さらに三木谷さんが引用するのが、江戸時代の剣術指南書の一節です。「昨日の我に今日は勝つべし」——一晩で偉大な人物に成長するのではなく、毎日少しずつ良くなっていこうとする。その積み重ねが成功への道を開く。
「人には驚くほどたくさんの能力が手つかずのまま残っているからだ。誰かに『毎日少しずつ改善してください』と言ったとしよう。1年後、どんな結果が得られるだろうか」
改善はいつでも、誰でも始められる。三木谷さんはそう語ります。
経営哲学②|「プロフェッショナリズムの徹底」——情熱なき専門家に意味はない
楽天主義の2つ目のコンセプトは「Professionalismの徹底」です。ただし三木谷さんが求めるのは、単なるプロフェッショナルではありません。
「僕にとってプロフェッショナルとは、収入のためではなく、プライドと達成感のために全精力を傾けて仕事に取り組む人を意味する。だから『プロフェッショナルになれ』ではなく、『Professionalismの徹底』としたのだ。単なるプロフェッショナルではなく、情熱を持ったプロフェッショナルになれということだ」
三木谷さんが大好きだと語るのが、往年の喜劇映画「日本一の〜男」シリーズです。怠惰な職場に現れた主人公が竜巻のように動き回り、放置されていた仕事をてきぱきとこなしていく。そのシーンになると「いつも大声で笑ってしまう」とし、映画が終わると「すぐにでも職場に行き、同じことをやりたくなる」と言います。
在庫確認のような初歩的な業務であっても、「もっと効果的に、もっと短い時間で終わらせるにはどうするか」と工夫を凝らすこと。仕事のおもしろさは仕事自体にあるのではなく、人が作り出すもの——それが情熱を持ったプロフェッショナルの姿です。
経営哲学③|「仮説←実行←検証←仕組化」——砂場の子どもが実践していること
楽天主義の3つ目は「仮説←実行←検証←仕組化」というプロセスです。
三木谷さんはこれを砂場遊びで説明します。砂山を作り、水を運び、水をかけて川を作る子どもたち。バケツで水を運んだら砂山が壊れた。「じゃあ、もっと大きな砂山を作ろう!」——子どもたちは自然とこのサイクルを実践しているのです。
ところが、ビジネスの世界に入ると指示に従うだけの人間になることを強要される。やがて「砂場のスキル」を失い、自分で考え、試し、実験する力が消えていく。
「楽天市場」への質問メールに2分以内に電話で返答する——そんな一見地味なルールも、まず仮説として試し、顧客が驚き喜んだことを検証し、全社に仕組化することで生まれました。
「失敗しても処分を受けることはないという安心感がなければ、社員は実験に手を出せない。リーダーであれば、どんな結果に終わろうとも、それを受け止める度量を持たなければならない」——三木谷さんはそう語ります。
経営哲学④|英語化(Englishnization)——ルールを書き換える最大の実験
2010年、三木谷さんは約7000人の社員を前に、日本語から英語への移行を告げました。この日から役員会議も、社内の掲示板も、IDカードも、すべて英語に切り替える——。
「愚か」と批判した大手企業のCEOもいました。しかし三木谷さんは方針を変えませんでした。
英語化の目的は「英語が便利だから」ではありませんでした。日本語が持つ上下関係の障壁を取り払い、グローバルな人材を集めるための構造改革だったのです。
最初の役員会議は、いつもの2倍の4時間を要しました。英語に詰まる役員を「日本語で言っていいですか」と聞かれるたびに「ノー」と答え続けた。しかし数ヵ月後、社員は急速に成長を見せ始めます。
英語化プロジェクトはハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディに選ばれ、楽天の名を国際的ブランドとして世界に知らしめました。「楽天がプロ野球球団を創設したとき以来の反響だ」とマーケティング担当役員が語ったほどです。
2014年からは全社員の昇格要件にTOEIC800点のクリアを課しています。
経営哲学⑤|「海賊時代の終わり」——エンパワーメントが未来のビジネスを制する
三木谷さんはビジネスの本質を「海賊の歴史」に例えます。
かつて海賊は、敵に遭遇するたびに判断した——略奪するか、交渉するか。しかしコミュニケーション手段が発達して世界が「狭く」なると、略奪のコストは高まり、交渉したほうが得になるケースが増えた。インターネットによってさらに世界は狭くなった今、一方的な略奪の時代は終わりを迎えつつある。
「強引に利益をつかみ取り、支配するような略奪者ではなく、エンパワーメントと交渉を重んじる者が未来のリーダーになるだろう」
エンパワーメントとは、顧客・社員・自分・世界の全員が利益を得られる状態を作ること。誰かが得をするために誰かが犠牲になってはいけない——これが三木谷さんのビジネス哲学の根幹です。
楽天市場の出店者が店舗サイトを自由にカスタマイズできる機能は、創業当初から前代未聞の取り組みでした。「インターネット・ショッピングモールは規格化され、厳重に管理されなければならない」という業界の常識を書き換えた瞬間でした。
経営哲学⑥|「ディスカバリー・ショッピング」——自動販売機ではなく、バルセロナの市場を
三木谷さんがスペイン出張の合間に立ち寄ったバルセロナの市場。並べられた商品の色使い、商人のエネルギー、客と店員のおしゃべり——「どうすればこのすばらしい刺激をオンラインのマーケットでも実現できるだろうか」と考えずにはいられなかった。
帰国後、楽天市場のデザインを大きく変えました。
三木谷さんが楽天市場で徹底して否定してきたのが「自動販売機型」のeコマースです。クレジットカード番号を打ち込んだら商品が届いて終わり——そこには発見も、人間関係も、楽しさもない。
「人は価格だけでは動かない。買い物の原点はエンターテインメントだ」——ショッピングに楽しさと新たな発見をもたらす「ディスカバリー・ショッピング」こそ、楽天市場が支持された理由でした。
神戸の魚屋とスーパーマーケットが同じ通りに並んでいるのに、両方が経営できる理由はそこにある。価格だけが消費者を動かすわけではない。人間同士のつながりと信頼が、リピーターを生む——。
経営哲学⑦|「スピード=スピード=スピード」——三木谷曲線と完璧よりも速さ
楽天主義の5つ目にして、三木谷さんが最も強調するコンセプトが「スピード=スピード=スピード」です。強調するために3回繰り返す。
「僕が求めるのは、完璧さではなくスピードだ」
すべての失敗を事前につぶしてから進めるより、素早く動いて失敗したらその都度修正していく——これが三木谷流です。ためらいがちになっている人に対して「決断を下した以上、求められるのは行動だけだ。僕はゴールに向かってまっしぐらに走る」と語ります。
本書では「三木谷曲線」という概念も紹介されています。物事を始めたとき、最初は結果が出ない停滞期が続く。しかしあるポイントを超えると、急激に成果が加速する。この曲線を信じてスピードを落とさないこと——それが重要だと三木谷さんは言います。
社内公用語英語化を宣言した翌日には英語で役員会議を始め、楽天市場の出店者には初日からサイト更新ツールを渡した。「考えてから行動するのでは遅すぎる」——この姿勢が、2人で始めた会社を世界的企業に育てました。
三木谷さんの失敗談|TBS買収はなぜ失敗したか
2005年、三木谷さんはTBSの株式を取得し、経営統合を提案しました。しかし交渉は不調に終わり、株式を売却することになります。
本書でその教訓について率直に語っています。「TBS買収はなぜ失敗したか」という章を設け、文化的シナジーと買収後の統合への見立てが甘かったと認めています。
「買収の交渉・契約自体は全体のプロセスのほんの一部でしかない。長期間つづく関係を作り上げ、関係者全員でビジョンを共有できなければ、買収が成功したとはいえないのだ」
この失敗が、その後の海外M&Aにおける「文化的シナジーを最優先とする」戦略の礎になりました。
三木谷さんのこだわりグッズ
KPI(重要業績評価指標):楽天で最も頻繁に使われる略語です。社員個人の仕事と、会社全体のマクロな目標とをつなぐ「連結点」としてKPIを活用しています。「ゴールは具体的で特別なものでなければならない」——ケネディが「1960年代中に月への有人飛行を成功させる」と期限を明示して宣言したことを引き合いに、数値と期限の重要性を説いています。
IDカード:楽天主義の5つのコンセプトが裏面に記されています。廊下のポスターとともに、社員が日常的に目にする「企業文化の具体的な体現物」として機能しています。文化は成り行き任せに放っておくのではなく、意識的に管理・育成するものだという三木谷さんの哲学が込められています。
三木谷さんゆかりの地
兵庫県神戸市:三木谷さんが生まれ育った街です。1995年の阪神・淡路大震災はこの地で起きました。かつての知人・親戚が暮らした街を訪れるたびに、起業を決意した原点を思い出すと語っています。また三木谷さんはJリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーでもあり、故郷への愛着は経営にも及んでいます。
東京・品川(楽天本社):1997年に設立された際、秋葉原で自ら購入・運搬したサーバー1台から始まりました。今では楽天のデータセンターは世界各地に展開し、1棟のオフィスビルを占領するほどの巨大設備を持ちます。毎週火曜日の「朝会」(全社朝礼)には約5000人が参加します。
仙台(楽天イーグルス):2004年、プロ野球の新規球団として東北楽天ゴールデンイーグルスを創設。「選手は応援している客に対して最高のパフォーマンスをしなければならない」と公言した三木谷さんのビジネス思想が球団運営にも貫かれ、創設わずか9年で日本一を達成しました。
三木谷さんから学ぶ、経営者への3つの教訓
1. ルールを疑うことが、最初の改善である テニス部のボール拾い、日本企業の年功序列、eコマースの「価格競争」……三木谷さんは常に「なぜこのルールが存在するのか」を問い直してきました。「常識への盲目的追従が、ビジネスの発展の足かせとなる」——既存のルールを一度バラバラに分解し、より良いやり方を組み立て直すことが、成長の出発点です。
2. 文化は偶然に任せると弱体化する 楽天主義の5つのコンセプトをIDカードに印刷し、廊下に掲示し、朝会で繰り返し語る。「企業文化は成り行きに頼るべきではない。むしろ文化を適切に管理し、維持に力を注ぐことで、成功への原動力にすべきだ」——文化は放置すれば薄れていく。意識的に育てることが経営者の仕事のひとつです。
3. エンパワーメントは利他であり、利己でもある 出店者・顧客・社員・自分・世界——全員が得をする状態を作ること。「誰かの幸せのために誰かが犠牲になってはいけない」という哲学は、高い理想に見えますが、実は最も持続可能なビジネスモデルです。一方的な「略奪型」ビジネスは、世界がインターネットでつながった今、長続きしない時代になっています。
この記事で語りきれなかった三木谷さんの魅力
本書には紹介しきれないエピソードがまだあります。
たとえば、起業を決めた際に出会った本城慎之介さんへの説得。「銀行や商社、大企業が日本の中心だった時代は終わろうとしている。これから新しいアイデアを生み出し、日本を変えていくのは個人や、中小企業だよ」——興銀への就職を目指していた本城さんを、三木谷さんは共同創業者として引き込みました。
また楽天市場の創業時、「eコマースには手を出さないほうがいい」とほぼ全員に言われ続けた中で、三木谷さんが信じ続けたものがあります。それが、独立したばかりの会社に来た同僚がオンラインでウォール・ストリート・ジャーナルを読んでいた光景でした。「その瞬間、インターネットがビジネスを変革する道筋がはっきりと見えた」——これが三木谷さんの「アハー・モーメント」でした。
まとめ|三木谷浩史さんが教えてくれること
阪神・淡路大震災が「今すぐ」の決意を生んだ。ハーバードがルールを書き換える勇気を与えた。本城さんとの2人での創業が、楽天を生んだ。
三木谷さんの人生を貫くのは「既存のルールへの問いかけ」です。それは小さなテニス部の慣習から、日本企業の英語化という壮大な実験まで、常に一貫していました。
「幸運とは、機会に恵まれることに加え、十分な準備があってはじめてつかみ取れるものだ」——創業当初から企業文化の土台を築いてきた三木谷さんにとって、楽天の成長は偶然ではありませんでした。
毎日1%の改善が37倍の差を生む。完璧を求めずにまず動く。自分が信じたルールを書き換えてから問われるのは、行動の速さだけだ——。
参考文献:三木谷浩史著『楽天流』(講談社)

