偉大な経営者たちは、数多くの言葉を残しています。
その言葉は、書籍のために書かれたものではなく、修羅場の中で絞り出された言葉であり、何千人もの社員を動かすために紡ぎ出された言葉です。だからこそ、時代を超えて人の心に刺さります。
この記事では、日本・海外を代表する経営者28人が残した名言を、その背景とともに一人一言ずつ紹介します。
近代の実業家(明治〜昭和初期)
渋沢栄一(第一国立銀行ほか約500社)
「富をなす根源は何かといえば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」
道徳なき利益は長続きしないという、渋沢栄一の経済観の核心を示す言葉です。約500社の設立に関与しながらも、利益の追求と倫理の両立を生涯一貫して訴え続けました。現代のESGやコーポレートガバナンスの議論が高まる中、この言葉の先見性が改めて注目されています。
松下幸之助(パナソニック)
「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」
「経営の神様」が繰り返し語ったこの言葉は、小学校も出られず丁稚奉公から身を起こした松下幸之助自身の人生そのものです。数え切れない失敗を経験しながら、その都度立ち上がることで一代でパナソニックを築きました。「失敗」とは、やめた瞬間に決まるものだという逆説的な真実を示しています。
豊田佐吉(豊田自動織機)
「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」
豊田佐吉が遺した「豊田綱領」の一節です。発明への飽くなき探求と、時代の変化を先読みする姿勢を説いたこの言葉は、自動車産業への転換を果たしたトヨタグループの精神的な原点として、今もグループ各社に受け継がれています。
本田宗一郎(ホンダ)
「やってみもせんで、何がわかるか」
机上の計算より、まず手を動かして試してみることを何より重んじた本田宗一郎の哲学を凝縮した言葉です。エンジニアたちが「難しい」「できない」と言うたびに、本田はこの言葉で背中を押しました。浜松の小さな修理工場から世界のHondaを育てた原動力は、この「まずやってみる」という精神でした。
小林一三(阪急グループ)
「下足番を命じられたら、日本一の下足番になれ。そうすれば、誰も君を下足番にしておかぬ」
阪急電鉄・宝塚歌劇団・東宝を一代で作り上げた小林一三が、若い社員に繰り返し伝えた言葉です。「どんな仕事も全力でやりきれば、必ず次の道が開ける」という信念は、小林自身が銀行員から無一文で起業した経験に裏打ちされています。仕事への姿勢を問う言葉として、今も多くの経営者に引用されています。
安藤百福(日清食品)
「人生に遅すぎることはない」
48歳で全財産を失い、無一文から研究小屋にこもってチキンラーメンを発明した安藤百福が残した言葉です。カップヌードルを発明したのは61歳、宇宙食ラーメンを実現させたのは91歳のときでした。「何歳からでも、本気でやれば間に合う」という安藤の生き様は、この言葉を単なる励ましではなく、証明済みの事実として語らせています。
出光佐三(出光興産)
「黄金の奴隷となるな」
「海賊とよばれた男」のモデル・出光佐三が社員に叩き込んだ言葉です。「お金のために働くのではなく、仕事そのものに意味を見出せ」という哲学は、タイムカードも定年制もない独自の経営スタイルに表れていました。戦後の石油危機でも社員を一人も解雇しなかった出光の判断も、この言葉が根底にあったからこそでした。
小倉昌男(ヤマト運輸)
「サービスが先、利益は後」
宅急便を世に生み出した小倉昌男の経営哲学を一言で示す言葉です。「お客様が便利になることを考えれば、利益は自然についてくる」という信念のもと、当時の常識を覆して個人向け小口配送に踏み切りました。行政の規制、業界の反発、社内の抵抗──あらゆる壁をこの一言で乗り越えてきた小倉の姿勢は、今もヤマト運輸の企業文化として生きています。
土光敏夫(東芝・経団連)
「重きを下に置け」
東芝の再建を果たし、第4代経団連会長として財政再建にも取り組んだ土光敏夫が、リーダーのあり方として繰り返し説いた言葉です。「組織の力は現場に宿る。経営者はそこに重きを置け」という意味で、「メザシの土光さん」と呼ばれた質素な生活ぶりとともに、現場主義の象徴的な言葉として語り継がれています。
盛田昭雄(ソニー)
「成功にトリックはない。わたしは与えられた仕事に、全力を尽くしただけだ」
ウォークマンをはじめ世界を驚かせた製品を生み続けたソニーの共同創業者・盛田昭雄の言葉です。日本人経営者として初めてアメリカのビジネス界に正面から乗り込んだ盛田は、近道や特別な才能より「ひたむきに全力を尽くすこと」を何より重んじました。この言葉は、成功の秘訣を問われるたびに盛田が語ったものです。
稲盛和夫(京セラ・KDDI)
「人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力」
稲盛和夫が京セラフィロソフィとして体系化した「方程式」です。注目すべきは「考え方」だけがマイナスにもなりうる点で、「どれほど能力と熱意があっても、考え方が間違っていればマイナスの結果しか生まない」と稲盛は説きました。JAL再建にあたり、まず社員の「考え方」を変えることに全力を注いだのも、この哲学に基づいています。
昭和後半〜令和の経営者(日本)
永守重信さん(日本電産)
「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
28歳で3人の仲間と創業した日本電産を世界トップのモーターメーカーに育て上げた永守重信さんが、社員に叩き込んできた行動三原則です。「できる見込みもない製品を『できます』と言い切り、不眠不休で作り上げた」というエピソードが創業期に数多く残されており、永守さん自身がこの言葉を体で実践してきた経営者です。
似鳥昭雄さん(ニトリ)
「リスクを自ら取り込む。リスクのないところには、利益も成長もない」
「のろまな亀」と自称する似鳥昭雄さんが、それでも30年以上連続増収増益を続けてきた姿勢を示す言葉です。リーマンショックで多くの企業が守りに入った2008年、ニトリは6回もの値下げを断行して増収増益を記録しました。「みんなが怖がる時こそ、前に出るチャンスだ」という判断は、この言葉の実践そのものでした。
孫正義さん(ソフトバンクグループ)
「成功する者と失敗する者の違いは、頭の差より性格の差のほうが大きい」
孫正義さんが起業家や若い世代に繰り返し語ってきた言葉です。「いくら頭が良くても、諦める性格では成功できない。意志の強さ、誠実さ、粘り強さが成否を分ける」という孫さんの確信は、在日韓国人として差別と偏見の中で道を切り開いてきた自身の経験に根ざしています。
柳井正さん(ファーストリテイリング)
「一勝九敗」
ユニクロを率いる柳井正さんが著書のタイトルにも冠した言葉で、「ビジネスとは失敗の連続であり、それでも諦めないことが唯一の成功法則だ」という哲学を示しています。「私が手がけたビジネスで成功したのはユニクロだけで、他はほぼすべて失敗した」と自ら語る柳井さんにとって、失敗は恥ではなく、成功への必要条件です。
鈴木敏文さん(セブン&アイ・ホールディングス)
「競争相手は同業他社ではなく、変化する顧客ニーズだ」
セブン-イレブンを日本に根付かせ、コンビニエンスストアという業態を文化にまで育てた鈴木敏文さんの言葉です。「同業者に勝つことを目標にすれば、顧客が見えなくなる」という逆説は、半世紀にわたって変化し続けるセブン-イレブンの姿に体現されています。「仮説と検証」を繰り返す経営スタイルも、この顧客視点から来ています。
星野佳路さん(星野リゾート)
「教科書通りにやれば、必ずうまくいく」
赤字旅館を次々と再建してきた星野リゾートの代表・星野佳路さんが繰り返す言葉です。「経営理論は正しい。問題は実践できているかどうかだ」という信念のもと、マイケル・ポーターの競争戦略論を愚直に実践し続けてきました。感覚や経験則に頼らず、理論を徹底することこそが最も難しく、最も強いという星野さんの哲学が凝縮されています。
宗次徳二さん(カレーハウスCoCo壱番屋)
「掃除は経営の原点だ」
孤児として育ち、無一文から飲食業を起こした宗次徳二さんが、CoCo壱番屋を日本最大のカレーチェーンに育てる過程で繰り返してきた言葉です。今も毎朝4時に起き、店舗周辺のゴミを自ら拾い続ける宗次さんにとって、掃除は「お客様への最低限の敬意」であり、経営者の姿勢が最も正直に表れる行為です。
藤田晋さん(サイバーエージェント)
「21世紀を代表する会社を創る」
26歳でサイバーエージェントを創業した際に掲げたビジョンであり、藤田晋さんが社員に繰り返し語り続けてきた言葉です。インターネットバブル崩壊、上場廃止騒動、AbemaTVへの数百億円の先行投資──いくつもの苦境でこのビジョンに立ち返り、判断の軸にしてきました。「言い続けることで、自分も社員も本気になる」と藤田さんは語っています。
海外の経営者
ヘンリー・フォード(フォード・モーター)
「できると思えばできる。できないと思えばできない。どちらも正しい」
T型フォードの大量生産で自動車を庶民のものにし、20世紀の産業革命を牽引したヘンリー・フォードが残した言葉です。「信念が行動を決め、行動が結果を決める」という人間の心理の本質を突いており、馬車の時代に「誰もがクルマに乗れる社会」を本気で信じた自身の経験から生まれた言葉でもあります。
アンドリュー・カーネギー(カーネギー鉄鋼)
「自分より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る」
スコットランドの貧しい家庭に生まれ、「鉄鋼王」にまで上り詰めたアンドリュー・カーネギーが、1901年のスピーチで「自分の墓石に刻んでほしい」と語った言葉です。なお実際の墓石には生没年のみが刻まれており、この言葉は刻まれていませんでしたが、カーネギー自身の哲学を最も端的に示すものとして語り継がれています。「一人で全部できる必要はない。できる人を見つけ、動かすことが経営者の最大の仕事だ」という信念は、財産の90%以上を慈善事業に寄付した晩年の姿とともに、カーネギーという人間の本質を伝えています。
スティーブ・ジョブズ(Apple)
「点と点は、後からしかつながらない」
2005年のスタンフォード大学卒業式スピーチでジョブズが語った言葉です。「将来を見通して点をつなぐことはできない。後ろを振り返ってのみ、つながりが見える。だから今やっていることが将来どこかでつながると信じるしかない」──カリグラフィーへの興味が、後のMacの美しいフォントにつながったという自身の経験を語ったこのスピーチは、世界中の若者に「今の点を全力で打ち込め」というメッセージを届けました。
ウォルト・ディズニー(ウォルト・ディズニー・カンパニー)
「語るのをやめて、始めることだ」
アニメーターとして何度も失敗し、スタジオを倒産させながらも夢を実現させたウォルト・ディズニーらしい言葉です。「ディズニーランドは絶対に失敗する」と周囲に反対され続けながら、議論より行動を選び続けたディズニーの姿勢が凝縮されています。「夢を語ることに時間を使うより、夢に向かって一歩踏み出すことに時間を使え」というシンプルな行動哲学です。
ウォーレン・バフェットさん(バークシャー・ハサウェイ)
「ルール1:絶対に損をするな。ルール2:ルール1を忘れるな」
「投資の神様」バフェットさんが投資の原則として語ってきた言葉です。「儲けることより、損しないことを優先せよ」という逆説的な哲学は、90年以上にわたって複利で資産を増やし続けてきた実績に裏打ちされています。「理解できない企業には投資しない」という徹底した自制心とともに、シンプルだが実践が極めて難しい原則として世界中の投資家に語り継がれています。
ビル・ゲイツさん(マイクロソフト)
「成功は最悪の教師だ。優秀な人々をして、自分は失敗しないと思わせてしまう」
ビル・ゲイツさんが著書『The Road Ahead』(1995年)の中で記した言葉です。マイクロソフトが独占的地位に慢心したことで多くのイノベーションを取り逃した経験への内省も込められています。慈善事業への転身後も学び続けるゲイツさんの姿勢は、「成功した後こそ、謙虚に学べ」というこの言葉を体現しています。
ジェフ・ベゾスさん(Amazon)
「あなたのマージンは、私のチャンスだ」
ベゾスさんの言葉として広く知られるこの表現は、2012年のFortuneの記事で「ベゾスの口癖」として紹介されて以来、Amazonの競争哲学を端的に示す言葉として語り継がれています。「既存のプレーヤーが利益を取りすぎているところに、顧客への還元余地がある」というAmazonの姿勢を端的に示しており、書籍・音楽・電子機器・クラウドと次々と既存業界に参入してきたロジックそのものです。
イーロン・マスクさん(テスラ・SpaceX)
「失敗は選択肢の一つだ。もし失敗していないなら、十分に革新的ではない」
SpaceXの最初のロケット打ち上げが3回連続で失敗し、会社の資金が底をつく寸前まで追い詰められた経験を持つマスクさんの言葉です。「誰もやったことがないことに挑めば、失敗は不可避だ。失敗を恐れて革新を避けることの方が、本当の失敗だ」という哲学は、電気自動車・宇宙開発・AIと前人未踏の領域に踏み込み続けるマスクさんの行動を支えています。
ジャック・マーさん(アリババグループ)
「今日は辛く、明日はもっと辛い。しかし明後日は美しい」
英語教師から身を起こし、18回の就職試験に落ち、Appleの採用にも落ちたジャック・マーさんが、アリババ創業後の苦境の中で社員に語り続けた言葉です。「辛さを乗り越えた先にしか本当の成果はない」というこの言葉は、単なる励ましではなく、マー自身が何度も挫折を乗り越えてきた実感に基づいています。「明後日の美しさを信じられる者だけが、今日と明日の辛さを乗り越えられる」と語っています。
まとめ
28人の名言を並べて見えてくるのは、いくつかの共通点です。
まず、失敗を肯定する言葉が多いことです。「一勝九敗」「失敗は選択肢の一つ」「成功するところまで続ければ成功になる」……偉大な経営者ほど、失敗と真摯に向き合った経験を言葉にしています。
次に、行動を促す言葉が多いことです。「やってみもせんで」「語るのをやめて始めることだ」「すぐやる、必ずやる」……思考より行動を優先する姿勢が共通しています。
そして、顧客や社会への眼差しがあります。「サービスが先、利益は後」「富は道義なければ永続しない」……自分の利益より先に、相手に何を提供するかを考えた者が最後に残っています。
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