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「いまはまだインターネットのはじまりの日であり、アマゾンにとってもまた、現時点はまだはじまりの日にすぎません」
1997年、アマゾンの最初の株主への手紙に、ジェフ・ベゾスさんはそう書きました。創業からわずか3年、年間売上が1億4780万ドルに達したその瞬間に、ベゾスさんが株主に伝えたのは成果の自慢ではなく「まだ始まったばかりだ」という宣言でした。
本書『Invent & Wander』は、1997年から2020年にわたる株主への年次書簡と、インタビュー・講演録を一冊に編んだものです。序文を書いたのは『スティーブ・ジョブズ』の著者ウォルター・アイザックソンで、翻訳は関美和さん。ベゾスさん自身の言葉から、アマゾンとブルーオリジンを築いた思想の全容が浮かびあがります。
ジェフ・ベゾスさんの基本プロフィール
| 氏名 | ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos) |
| 生年 | 1964年、アルバカーキ(米・ニューメキシコ州)生まれ |
| 学歴 | プリンストン大学(電気工学・コンピュータサイエンス専攻) |
| 経歴 | D.E.ショー(ヘッジファンド)→1994年アマゾン創業→2021年CEOを退任し会長に |
| 主な事業 | Amazon(EC・AWS・Alexa)、Blue Origin(宇宙開発)、Washington Post(買収) |
| 幼少期の影響 | 南テキサスの祖父の農場で毎夏を過ごし、自活力と冒険心を身につける |
| 座右の哲学 | 「長期がすべて」「顧客にこだわる」「後悔最小化のフレームワーク」 |
子ども時代——祖父の農場と「スタートレック」
アイザックソンの序文が指摘する通り、ベゾスさんを他の経営者と区別するのは「人文科学・テクノロジー・ビジネスの3つを結びつける力」です。その原点は幼少期にあります。
毎夏を過ごした南テキサスの祖父の農場で、ベゾスさんは壊れたブルドーザーを祖父と自分たちで修理し、家畜を去勢し、風車をつくりました。祖父は厳しくも愛情深い元海軍司令官で、アメリカ原子力委員会の管理職として水素爆弾の開発にも携わった人物でした。
「動物の世話は祖父がすべて自分でやっていた。家畜用の手術針も自分でつくっていたほどだ。針金をバーナーで熱し、叩いて平らにして削り、穴を開けると針ができる」とベゾスさんは語っています。
1969年、5歳のとき、テレビでアポロ11号の月面着陸を見て宇宙に夢中になります。そしてSF小説の膨大な蔵書のある図書館に祖父に連れていってもらい、アイザック・アシモフとロバート・ハインラインのファンになりました。
モンテッソーリ幼稚園では「先生が、私がひとつのことに集中しすぎてほかの作業に移らないので、仕方なく椅子を取り上げて移動させたと母にこぼしていた」と本書に書かれています。「まわりの人に聞いたら、いまも変わっていないと言うだろうね」とベゾスさんは付け加えています。
「後悔最小化のフレームワーク」——ヘッジファンドを辞めた理由
プリンストン大学で物理学を学ぼうとしたベゾスさんは、量子力学の難問をルームメイトが暗算で解くのを見て「自分は偉大な理論物理学者にはなれない」と悟り、電気工学とコンピュータサイエンスに転向します。
卒業後はニューヨークのヘッジファンド「D.E.ショー」に入社。仕事が深夜に及んだときに備えてオフィスに寝袋を持ち込むほど猛烈に働きました。
1994年、インターネットが年率2300パーセントを超える速度で成長しているという統計を目にします。オンラインで売れる商品リストをつくり、書籍を選択。世界中に300万タイトルを超える書籍があるのに、最大の書店でも置けるのは15万タイトル程度——この非効率にビジネスチャンスを見出しました。
上司のデヴィッド・ショーに相談すると「すごくいいアイデアだと思う。いいアイデアには違いないがね、でも君のようにいい仕事に就いていない人なら、もっといいと思うよ」と言われました。
迷ったベゾスさんが使ったのが「後悔最小化のフレームワーク」です。80歳になったときに、その判断を振り返ってどう思うかを想像する思考実験です。
「80歳になったとき、これに挑戦したことは絶対に後悔しないはずだと思った。もし失敗しても後悔はしないが、やらなかったら後悔する。きっと毎日心残りがつきまとうとわかっていた」
妻のマッケンジーさんに相談すると「あなたがやりたいことなら全面的に応援する」と答えてくれました。ベゾスさんはヘッジファンドを辞め、テキサスに飛んで車を西に走らせながら事業計画をスプレッドシートに書き込みました。
1997年の最初の手紙——「長期がすべて」
本書の核心は24年分の株主への手紙です。1997年の最初の手紙の見出しを、ベゾスさんは斜体でこう書きました。
「長期がすべて」
そして宣言します。「短期利益や目先のウォール街の反応よりも、長期的に市場リーダーとしての地位を固めることを考えて、投資判断を行い続けます」
この手紙には、アマゾンの基本姿勢が一気に書き連ねられています。顧客にとことん集中し続けること。市場リーダーとしての地位が強まるほど収益力も強固になること。キャッシュフローを最大化すること。費用を賢く使い無駄を省く文化を守ること。
「こうした考え方が『正しい』投資哲学だと訴えるつもりはありません。ですが、これがアマゾンの哲学ですし、これまでもこれからも続ける姿勢をはっきりと伝えておかなければ義務を果たしたことにならない」
この一節が象徴するように、株主への手紙はベゾスさんが毎年みずから書き、アマゾンの哲学を丁寧に説明し続けた文書です。
「顧客にこだわる」——ネガティブレビューを掲載した理由
本書を通じて繰り返されるのが、顧客中心主義への強いこだわりです。
「お客様はつねにより多くを望み、それによって企業を引っ張りあげてくれる。もし競合他社に執着し、市場の一番手であることにこだわれば、まわりを見回し、みんなが自分の後ろにいるのを見て、進歩のスピードを少し緩めてしまうかもしれない」
顧客中心主義を体現するエピソードが、ネガティブレビューの掲載です。ある投資家が「ネガティブレビューが商売の邪魔になることをわかっていないのではないか」と文句をつけた場面でベゾスさんは答えます。
「その手紙を読んだとき、私たちは物を売ってお金を得ているのではないと思った。お客様の購買判断を助けることで、対価をもらっているんだ」
また社員に対してもこう繰り返していたと本書に記されています。「お客様は鋭く賢いということを大原則に掲げています。恐れなければならないのはライバル企業ではなく、お客様です」
パワポ禁止と「6ページのナラティブ」
本書の中でも実践的な話題として注目されるのが、プレゼンテーションの方法です。
「アマゾンではパワーポイント(またその他のスライド)を使ったプレゼンテーションはやりません。そのかわり、6ページのナラティブ形式の文書を書くことにしています。そして毎回ミーティングのはじめに、勉強会のような感じでその文書をみんなで黙読します」
上限6ページのレポートを書かせることで、書き手はいやでも思考を整理しなければならなくなるとベゾスさんは考えます。「たった6ページのレポートでさえ、チームワークの賜物です。あなたでなくても、チームの中に文章力がある人がいればいいのです」
これはスティーブ・ジョブズの「スライドを使わないプレゼン」と同じ思想——物語の力への信頼から来ています。
「傭兵か伝道者か」——ホールフーズ買収の基準
本書には、ベゾスさんが買収先の経営者と会うときに何を見ようとするかが率直に書かれています。
「私はいつも、まず何よりもひとつのことを見極めようとする。その人が使命を持った伝道者か、それとも金目当ての傭兵かということだ。傭兵は株をすぐに手放す。伝道者は自分たちのプロダクトやサービスを愛し、顧客を愛し、偉大なサービスをつくろうと努力する。矛盾するようだが、より多くのお金を稼ぐようになるのは伝道者のほうだ」
2017年にホールフーズ・マーケットを買収した理由のひとつは、創業者のジョン・マッキーへの評価でした。「ホールフーズは使命に動かされている会社で、マッキーは伝道者だった」
ジェフ・ベゾスさんのこだわり
本書のインタビューや講演録から、ベゾスさんの個人的なこだわりが垣間見えます。
朝のルーティン:「私は朝のんびりと過ごすのが好きだ。新聞を読むのも好きだし、コーヒーも好きだ。子どもたちが登校する前に一緒に朝ご飯を食べる」。一日の最初の会議は10時から。「本当に精神力が必要なミーティングは朝10時に入れる。午後の5時になると、もうヘトヘトで、これ以上考えられない感じになる」
8時間睡眠の哲学:「経営層は何に対して給料をもらっているのだろう?数少ない、優れた判断をすることに対してだ」。6時間睡眠で33件多く判断できるとしても、判断の質が落ちれば意味がない。「8時間睡眠が私には必要なのだ。よく寝れば、よく考えられる。元気も出る。機嫌もよくなる」
1万年時計:長期思考のシンボルとして、テキサスに所有する農場に、未来学者のダニー・ヒリスが設計した「1000年に一度カッコーが飛び出す1万年時計」の建設を始めました。「これは特別な時計だ。長期思考のシンボルとして、それを目に見えるかたちにした物体なんだ」
宇宙収集家:偉大な科学や探検や発見の瞬間を記した歴史的な遺物を収集しています。アポロ計画で使われたサターンVロケットのF1エンジンを海底から回収するプロジェクトにも資金を出しています。
「10年で変わらないものに投資する」——成功の本質
本書の中でも特に印象に残る洞察が、「変わらないもの」への問いかけです。
「今後10年で何が変わると思いますか?」という質問はよく受けるが、「今後10年で変わらないものは何か?」という問いのほうがはるかに重要だ、とベゾスさんは語ります。
「10年経っても、低価格がお客様に支持されるのは間違いありません。配達も速いほうがいいに決まっています。品揃えも多いほうがいいはずです。ということは、これらのことに心血を注げば、これからも見返りがあるのです」
「10年後にお客様がやってきて、『ジェフ、アマゾンは気に入ってるけど、もう少し配達を遅くしてくれないかな?』と頼まれることはないでしょう」
宇宙への夢——「太陽系に1兆人を」
本書の後半では、ブルーオリジンの思想が詳しく語られます。ベゾスさんが宇宙開発に取り組む理由は金儲けではありません。
「これは私にとって最も重要な仕事で、強い信念を持ってやっていることだ」
グローバルなエネルギー使用量は毎年3パーセント伸びており、25年ごとに倍になります。地球の資源が枯渇する前に、重工業を宇宙に移さなければならない——それがベゾスさんの信念です。
「私の孫の孫には、私よりも一人当たりのエネルギーをもっと多く使うようになってほしい。太陽系のもとで1兆人が過ごせるような未来を願っている。そしてそこに1000人のアインシュタインと1000人のモーツァルトが存在してほしい」
5歳のときにテレビで見たアポロ11号の月面着陸と、高校の卒業式で宣言した「宇宙よ、最後の開拓地よ、いずれ会おう!」という言葉は、2021年に自らブルーオリジン初の有人宇宙飛行を実現することで、字義通りに果たされました。
24年分の株主への手紙を読み終えたとき、ひとつのことが際立ちます。ベゾスさんが一貫して語り続けたのは「まだはじまりの日」という言葉でした。2020年の最後の手紙でも、彼はその姿勢を変えません。
「この国では、毎日がはじまりの日なのです」
📚 Invent & Wander——ジェフ・ベゾス Collected Writings(ジェフ・ベゾス著、ダイヤモンド社)を読んでみる
参考文献:ジェフ・ベゾス著・関美和訳『Invent & Wander——ジェフ・ベゾス Collected Writings』(ダイヤモンド社)

